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Case Study

懐古ゲーム機による消費意識の転換 「癒し」のマーケティング戦略 なぜ、今、ファミコンミニ・メガドライブミニを発売するのか

投稿日:2019年5月27日 更新日:

かつて、1980年代~1990年代に玩具市場を席捲したゲーム機が、ここにきて次々と復刻される動きが出てきています。

「メガドライブミニ」9月19日発売 6980円
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1904/01/news069.html
セガゲームスは3月30日、家庭用テレビゲーム機「メガドライブ」(1988年発売)を手のひらサイズで復刻した「メガドライブミニ」を9月19日に6980円(税別)で発売すると発表した。

ITmedia News 2019/4/1

ミニファミコン・スーファミの合計販売台数が1000万台を突破、amiiboのセールスは5000万体に到達
https://jp.ign.com/mini-superfamicom/30441/news/1000amiibo5000
「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」と「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」は合計で1000万台以上が販売され、amiiboのセールスは5000万個に達した。

IGN JAPAN 2018/11/1
COLIN STEVENS氏 署名記事

あの頃の僕らの100メガショック!「NEOGEO mini」開封レポート
https://jp.ign.com/mini-superfamicom/30441/news/1000amiibo5000
SNKブランド40周年を記念したミニサイズのゲームハード「NEOGEO mini(ネオジオ ミニ)」が、本日7月24日に発売となった。鮮やかなカラーリングが印象的だった業務用ネオジオ「MVS」のアーケード筐体を手の平サイズで再現。

Impress Game Watch 2018/7/24
山村智美氏 署名記事

 

家庭用ゲーム機は、1980年代から1990年代後半にかけて、熾烈な市場競争が行われたことを、記憶に留めている方も多いかと思います。おおよそに時代を分けて考えますと、

  • 初期:任天堂(ファミコン)、セガ・エンタープライズ(セガマーク3、マスターシステム)、エポック社(カセットビジョン、スーパーカセットビジョン)
  • 中期:任天堂(スーパーファミコン)、セガ(メガドライブ)、NEC(PCエンジン)、SNK(NEOGEO)
  • 後期:任天堂(ニンテンドー64、ゲームキューブ)、セガ(セガサターン、ドリームキャスト)、ソニー(プレイステーション1、プレイステーション2)、松下電器産業(3DO リアル)

など、様々な機種が入り乱れて市場競争を繰り広げました。これらのゲーム機の名前を見て、数々の思い出が蘇る人や、目頭が熱くなる人もいらっしゃるかもしれません。ではなぜ、今、このタイミングでゲーム機の復刻が相次いでいるのでしょうか?

前述のようなゲーム機に日常的に触れていた経験がある人は、年齢として現在はだいたい30代後半~40代後半といったところです。仕事や生活で慌ただしい日々を過ごしており、今ではゲームから最も縁遠い日常生活を過ごしている人が多いのではないかと思います。スマホでのアプリゲームをたまにやる程度で、ゲーム機自体には関わる機会がめっきり減ってしまっているのではないでしょうか。

少子高齢化が進んだことも影響し、かつては成長産業と言われていた日本国内のゲーム機市場も、現在では成長性が鈍化した傾向となっております。

2018年国内家庭用ゲーム市場速報。家庭用ゲーム市場規模は4343億円(前年比84.1%)、ソフト市場は前年比108.2%で2年連続プラスに。
https://www.famitsu.com/news/201902/18172114.html
2018年の家庭用ゲーム市場規模は、ハードが昨年対比84.1%の1700.9億円、ソフトが同108.2%の2642.1億円(うちオンラインが882.0億円)、合計で同97.3%の4343.0億円となりました。ハード市場は昨年対比でマイナスとなりましたが、2013年から2016年の市場規模を上回っており、依然として高い水準と言えます。一方、ソフト市場はダウンロード販売が大幅拡大し、オンライン決済全体を含め、2年連続で昨年対比プラスとなりました。

ファミ通.com 2019/2/18

かつて、団塊世代(1940年代後半~1950年代前半生まれ)向けのマーケティングとして、復刻版の高級オーディオやギター、旧版のレコード・名作映画の復刻など、かつての思い出や記憶を想起させ、消費を誘導する動きがありました。
現在は、それよりも下の世代である、就職氷河期世代(1970年代後半~1980年代前半生まれ)向けのマーケティングとして、今回の家庭用ゲーム機の復刻が行われているのかもしれません。

前述の両世代に共通するのは、人口のボリュームゾーンであるというところですが、決定的な違いがあるのは、可処分所得と社会に対する肯定感です。時代に翻弄されてきた就職氷河期世代は、危機意識が非常に強く、社会に対する前向きな肯定感を得られる機会が少なかったこともあり、財布の紐がとても堅い傾向があります。その理由として、この世代は他の世代と比較して可処分所得が著しく落ち込んでいることが特徴的であるためです。

中高年化する就職氷河期世代の厳しい現実
https://www.nippon.com/ja/currents/d00406/
40代前半の多くを占めるのが、就職氷河期世代だ。彼らの平均賃金は45万円(約4200ドル)を下回る。バブル世代に比べると5万円以上も少ない。子どもを養ったり自動車や住宅を購入したりと、本来なら消費意欲が最も旺盛なはずの年代にお金が回っていない。氷河期世代には1971~74年生の第二次ベビーブームも含まれており、経済全体に与えるインパクトも大きい。デフレ脱却も進むわけがない。

nippon.com 2018/5/7
玄田有史氏 署名記事

そのような社会の辛酸を舐め尽くした世代において、数少ない肯定感のある記憶が、昔のゲーム機です。これは、いわば「癒しのマーケティング戦略」であると言えます。そのため、消費に対する強い抵抗感を持つ世代に向けて、消費意識に対する転換を行うべく、企業側が仕掛けているマーケティング戦略だと推定できます。また、ゲーム機メーカーにとっては、ゲームに対するリブランディングの一種であると捉えることもできます。

これらの「癒しのマーケティング戦略」は、復刻ゲーム機のヒットもあり、今のところ一定の成果を見せています。ただ、可処分所得が増加し、社会に対する懸念が払拭されない限り、今後もこの世代の消費意識の転換は容易には進まないでしょう。

日本政府もようやく真剣にこの世代に対する社会的な支援策を検討し始めているようですが、残された時間は非常に少なく、これからは時間との闘いになります。ゲーム機メーカーの頑張りだけに頼ることなく、日本政府による氷河期世代への有効な国家戦略とリブランディング政策についても、是非とも早期の実行をお願いしたいところです。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

 

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