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Case Study

機能性アパレルを巡る、クールでホットな市場競争 ユニクロとワークマンに見る経営とブランド戦略

投稿日:2019年4月24日 更新日:

 

アパレルというと、華やかなイメージをもたれている方が多いのではないでしょうか?今回は、アパレルといってもそのイメージとはなかなか結び付かなかった2つのブランドについて考察してみます。その2つとは量販の雄「ユニクロ」とガテン系ブランド「ワークマン」です。ワークマンは数年前より今までとは指向の違うTVCMを放映し、意外なインパクトで新しいブランド世界観を伝える認知活動を積極的に行っていました。加えて先日の流通ニュースでは、次のように業績が絶好調と報じられています。まずはワークマンについて、経営的側面から探ってみましょう。

ワークマン/4~12月、ワークマンプラス出店効果で大幅増収増益
https://www.ryutsuu.biz/accounts/l020715.htmlワークマンが2月6日発表した2019年3月期第3四半期の決算は、売上高506億2400万円(前年同期比16.4%増)、営業利益109億5800万円(28.9%増)、経常利益118億8700万円(26.4%増)、純利益73億6300万円(26.0%増)だった。

流通ニュース 2019年02月07日

世代によるかもしれませんが、ワークマンといえば吉幾三さんを起用したTVCMのためか、「ガテン系労働者」専門の店というイメージが強かったものです。しかし最近は、顧客のブランド・イメージが変わりつつあり、“オシャレで機能性の高いアパレル関連商品を豊富に扱う専門店”という認識になっているようです。そのブランド体験価値をより消費者(特に女性)に分かりやすく伝えるため、近頃は次のような店舗形態も展開し、新しいブランド世界観を構築しようとしていると考えられます。

ワークマンプラス/「ららぽーと湘南平塚」に女性向け強化した実験店
https://www.ryutsuu.biz/report/l040318.html
ワークマンは4月4日、「WORKMAN Plusららぽーと湘南平塚店」をオープンする。4月3日関係者向け内覧会を行った。「WORKMAN Plus」は、「高機能×低価格」をコンセプトに、ワーク・ウェアーで培った機能と低価格、明るいカラーや、女性でも着られるSサイズの導入などで、人気の一般顧客向けの新業態。
「ららぽーと湘南平塚店」は、女性向け商品の品ぞろえを拡充した実験店と位置付けている。同店は1階で食品スーパー近くの好立地で、人通りも多く、店の前を通るお客の8割以上が食品スーパーに出入りする女性客であるため、女性専用コーナーを充実させた。

流通ニュース 2019年04月03日

機能性衣類といえば

このようにワークマンの快進撃が続いていますが、このワークマンと類似したカテゴリー商材(機能性衣類)を多数扱っている企業があります。皆さんのよくご存じのユニクロ・GUです。そのユニクロの大ヒット商品といえば“フリース”があります。一般的にユニクロといえば、この“フリース”が頭に浮かぶことが多いのではないでしょうか。

元々フリースは、アウトドアや工事関係者の防寒着として使用されていた素材です。高機能ではありましたが、そのぶん高価でもあり、なおかつ決して格好いいともいえない商品でした。そのため、ワークマンのような労働者専門店や、アウトドア専門店で細々と販売されていた商品であり、現在のような大衆が街着として着用するメジャーな商品ではありませんでした。

“大衆×機能性”を事業領域としたブランド化

ユニクロは、その機能性があるフリースを普段着として利用できるようにオシャレで安価に提供するという戦略を実行したことで、国民的大衆アパレル・ブランドという消費者から見たら独自性の高いブランド・ポジションを手に入れることができたのではないでしょうか。

多くのアパレル・ブランドは、顧客(ターゲット)を絞り込み、架空の顧客像(ペルソナ)を設計して、ペルソナに向けた戦略を構築します。ユニクロの場合、老若男女問わず提供しているので、ある意味年齢軸による絞り込みはしていません。反面、“ファッション知識が余り無くても気軽に着用できる=肩ひじを張らずにいつでも購入し着用できる”身近なブランドになることが狙いではないでしょうか。

消費者によるユニクロのブランド想起

このユニクロの機能的価値でもある“国民的大衆ブランド”の意図は、企業(=ブランド)が着る人(=商品を買う人)を限定せず(=選ばず)、誰でも(=決してファッションに詳しくなくても)着用できる(=コーディネートができる)ベーシック(=流行りに左右されない)カジュアルウェアーであることと考えられます。したがってその価値を維持・進化させるために、素材やデザインなどのR&Dや商品開発は当然かなめとなるでしょう。その結果、単なる高機能衣類でなく、“ヒートテック”や“エアリズム”などの固有の商品が先に想起され、追ってユニクロというブランドが想起されることも多いと思われます。

消費者のブランドへの信頼=企業ブランド価値

そのようなユニクロとは対照的なブランドに、グッチやシャネルのようなブランドのロゴやマークを用いることで、さまざまな商品が高付加価値となるラグジュアリー・ブランドがあります。ユニクロはこれらとは異なり、“普段着として使える高機能性アパレルをリーズナブルに提出してくれるブランド”というイメージが強いと思われます。例えば、ノーブランドのフリースとユニクロのフリースでは、ユニクロを支持して買う人が多いということが考えられます。それは、たとえ商品機能が全く同じであったとしても、“機能性アパレルといえばユニクロ”という、信頼によるブランド・イメージをもつことで、フリースそのものの価値を高めることができるのが、ユニクロという企業のブランド価値ということになります。

“ワークマンプラス”がキー・ドライバーに

このユニクロの成功を横目に見て、リバース・イノベーション(※)の如く戦略的に新たな店舗展開を始めているのが、現在のワークマンです。元々、仕事用の商品を多数取り扱っていたため、機能性商品の開発や販売は企業の戦略上のコア・コンピタンスです。すなわち、これはユニクロのものまねというよりは、むしろ得意な分野を伸ばしたというべきです。既に労働者という特定層の顧客を一定数確保しているなかで、オシャレ感をプラスすることにより、ワークマンプラスとして新たな店舗展開が可能となったシナリオです。

※リバース・イノベーション
新興国で生まれた技術革新(イノベーション)や、新興国市場向けに開発した製品、経営のアイデアなどを先進国に導入して世界に普及させるという概念。先進国の技術や商品を新興国へ移転するという従来手法とは逆に、新興国から先進国へ逆流reverseさせるので、リバース・イノベーションとよばれる。
小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

“おしゃれで本格的ワーク・ウェアー”というブランド・アイデンティティ

ガテン系労働者向けのアパレル関連商品は、オシャレとは程遠い商品が多かったのですが、最近では一般的なスニーカーなどとデザイン性で遜色のない安全靴なども多数開発されています。特にワークマンプラスで扱っているものは洗練された商品が多く、一見しただけではワークマンでの商品だとはわかりません。結果として、労働者の作業服としてだけではなく、機能性の高い一般用の服として、多くの消費者のハートを捉えることに成功したものと思われます。

意外な競合が新規参入

ユニクロの競合はしまむらというのが今までの定説でしたが、今後はワークマンも強力な競合になっていくかもしれません。機能性アパレルを巡るクールでホットな競争が、今後も続いていきそうです。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

 

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