今回は、スターバックスの4P戦略のうち、立地戦略(Place)とプロモーション戦略(Promotion)についてみてみましょう。
1300店舗そのものが「広告」に
1996年、東京・銀座に日本1号店を出店、その後2003年度には500店舗、2013年度には1000店舗を突破、2017年現在1300店を超える店舗数となったスターバックス コーヒー。クーポン割引やテレビCMといったプロモーション(Promotion)をほとんど行っていない同社が強いブランド力を持つ理由の1つは、この立地戦略(Place)にあります。
アメリカのスターバックス本社でマーケティングプログラムの作成と実行に携わったジョン・ムーアは、自著の『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』の中で「出店が最大の広告である」と述べています。
Main&Mainという立地戦略
スターバックスの立地戦略は「Main&Main」と呼ばれるもので、ひたすら往来の多い中心街に集中的に出店しています。アメリカのスターバックスがなぜ往来の多い区画に出店したかというのは明確で、ビルのサインやディスプレイのように、スターバックスの店舗そのものが広告になるからです。スターバックスが店舗の拡大をはじめたころに、一番お金をかけたのがロケーショニング(立地戦略)でした。
前述の著書にも「エクスペリエンス(体験)」という言葉が何度も出てきますが、スターバックスが提供したいものはコーヒーという製品(Product)だけでなく、洗練された装飾、心地よい音楽、温かい接客で、くつろいだ時間を過ごすという「体験」です。その体験が実際に味わえる店舗でのサービスこそ、テレビCMでは伝えられないプロモーションになっているのです。
スタバがありそうな街に出店する
スターバックスの立地戦略は往来する人数という「数」だけでなく、往来する人の「質」にもこだわりました。経営コンサルタントの榎本篤史氏によると、スターバックスは「スタバがありそうな街」に数多く出店しています。スターバックスが東京23区で数多く出店しているのは千代田区、港区、渋谷区と、「流行やファッションに敏感で、かつ、比較的、所得水準の高い人が集まるエリア」であるといいます。一方、庶民的な荒川区には出店が一店もありません。立地の「数」と「質」がスターバックスのプロモーション戦略を支えているのです。
「デ・ブランディング」で街に溶け込む
スターバックスは店舗に派手に広告物を掲示しているかというとそうではありません。むしろブランドロゴに社名をなくすといった「デ・ブランディング」を行っています。
デ・ブランディングには
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- 企業らしさを控えめにすることで、顧客により身近に感じてもらう
- ブランドが浸透しているタイミングで行うことで、新しさや先進的なイメージを伝えることができる
といった効果があります。
スターバックスはデ・ブランディングによって、街に溶け込み、先進的なイメージを確立できたのです。
テレビCMも打たず、クーポン券も配らず、企業名も隠して、強力なブランド力を構築したスターバックス。ジョン・ムーアは、「スターバックス体験がブランドを作る」と説明しています。店舗に実際に来てもらい、上質なコーヒーと雰囲気を味わってもらい、口コミをしてもらうことで、自然とブランド力という「副産物」(ムーア同著より)が付いたのです。
ムーアは「ブランディングという魔法の粉をふりまけば、勝手に息の長いブランドができるというのは幻想であることを、スターバックスは私たちに教えてくれる」と話しています。製品やサービスを磨くこと、そして安易なテレビCMではなく、立地戦略やデ・ブランディングといった高度なブランディング/マーケティング戦略を駆使することで、スターバックスのブランドは構築されたのです。
スターバックスの立地戦略は、新たなステージに立とうとしています。例えば公共図書館や書店、病院の館内・店舗内にもスターバックスが併設されています。駅ナカにもスターバックスを見かけることが多くなりました。コミュニティの真ん中に立地し、さらにはコミュニティを自ら作り出そうとしています。スターバックスの立地戦略とプロモーション戦略のマーケティングミックスには、これからも注目してみていきたいものです。