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Case Study

ふるさと納税による地域ブランディング ーフレーム「ブランド・アイデンティティ・プリズム 」からの考察【後編】

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では、高千穂地域のブランディング戦略を行うためには、どのような方法が考えられるでしょうか。

まずは、現状の高千穂地域のブランド・アイデンティティ・プリズムを作成してみます。
その結果は、下記の通りです。

高千穂地域は、基本的に観光産業が外部接点であり、大きな需要を占めています。

そして、観光客の受け入れには十分な観光資源もあり、宿泊施設もあります。

そのため、観光客を呼び込むための施策が必要になります。

しかしながら、高千穂地域は観光に対して大きな問題を抱えています。それは、交通アクセスが非常に悪いということです。

一般的に、関東などの遠隔地からの観光客は、高千穂地域へ向かう場合に電車やバスで移動することになりますが、その際に高千穂地域へ向かうバスの本数が大変に少なく、1日で数本あるかどうかというところです。

また、バスだと輸送できる人数をそこまで多くできず、観光客の大量輸送を実現しにくいのではないでしょうか。なおかつ運行本数が少ないために、途中で観光立ち寄りする心理的な余裕が持てません。

なぜ、高千穂地域はこのような苦境に陥っているのでしょうか。

それは、あるローカル鉄道を廃止してしまったことが影響しています。

かつて高千穂地域には、高千穂鉄道というローカル鉄道が存在していました。

高千穂鉄道 (wikipedia)

https://ja.wikipedia.org/wiki/高千穂鉄道

この鉄道は学生も含めた地域住民の足であり、なおかつトロッコ列車などで観光客にも人気の鉄道でした。

高千穂鉄道 トロッコ神楽号 高千穂~延岡 [DVD](Amazon.com)
https://www.amazon.co.jp/

しかし、2005年に台風14号によって被災し、鉄道の復旧に膨大な費用が発生することとなってしまいました。

通常、鉄道は地域住民の利便性や観光資源が死活問題な地域にとっては重要な資産であり、復旧のために全力を尽くすはずです。

ところがこの時、当時の県知事や自治体首長が復旧費用の負担を断るという判断をしたことで鉄道の復旧を断念し、そのまま廃線となってしまいました。

この件については、2007年に宮崎県知事に就任した当時の東国原英夫知事も、高千穂鉄道は観光資源としても重要であると判断し、運行再開の希望を述べています。

このことからも明らかですが、当時の県知事と自治体の判断は、結果として沿線地域の観光客を減少させることになり、経済規模を縮小させる結果を招いてしまったということになるでしょう。

ローカル鉄道は、基本的に単体では採算がとれないことが多いです。

知名度が高いローカル鉄道としては千葉県の銚子電鉄がありますが、こちらも鉄道運行収入は赤字の状態であり、副業の「ぬれ煎餅」を含めた物販事業が企業としての売上高の大半を占めています。

銚子電鉄 ホームページ
https://www.choshi-dentetsu.jp/vspot/7/

しかし、鉄道単体では赤字であっても、観光客を輸送するためには存在する意味と価値があるため、自治体も支援をしており、鉄道として存続し続けているのです。

そこから考えられることとしては、観光資源の活用と観光客の利便性を高めるために高千穂鉄道の再整備をすることが、沿線地域の経済にも貢献することになるのではないかということです。

また、鉄道の復旧には時間がかかることを考えると、霧島地域と同様に、

  • 地域の名産品の品質向上
  • ふるさと納税返礼品の拡充
  • 知名度拡大のための販促活動

といったブランディング戦略も同時に進めていく必要があると思われます。

こうすることで、都城市は霧島地域と高千穂地域という、より強力な二枚看板を得ることが可能となり、都城市自体のブランド価値も向上し、ふるさと納税の納税額も増加することになるでしょう。

ここ数年の感染症問題によって観光自体は難しくなっていますが、その問題が解消した後は、一気に旅行・観光需要は回復すると見込まれています。

今回は自治体の話がメインとなりましたが、企業においても、これからのアフターコロナと呼ばれる時代を勝ち抜くために、競合が手をこまねいている間に人材・設備への投資を行っておき、競争力を高めておくことが大切です。

その方法の一つとして自らのブランド価値を再確認し、必要なブランディング戦略を競合よりも先行で実施しておくことが、アフターコロナを生き残っていくカギになるのではないでしょうか。

 

 

 

 


■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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