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Branding Method

コロナ時代でも変わらないブランドの核心   ~マーケティングコンセプトの歴史から「社会志向」の真の意味を読み解く~

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「アフターコロナにはこうなる」といった、コロナショック後のあり方について、様々な議論があふれかえっています。ブランド戦略についても例外ではありませんが、その中核となるマーケティング戦略に関する議論は特に盛んです。しかし冷静にマーケティングコンセプト(市場に対する企業の考え方やアプローチのスタンスのこと)の歴史をひもといてみると、コロナ時代でもおそらく変わらないトレンドがあります。それは人々の「社会志向」です。

 

近視眼的になりがちな未来予測

人類史を斬新な視点から描いた『サピエンス全史』の世界的大ヒットにより、一躍著名人となったイスラエルの歴史家・ユヴァル・ノア・ハラリ氏。彼は『サピエンス全史』の成功の勢いを駆って2018年『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』を著し、人類の未来を予測しました。その内容は簡単に言うと、人類がこれまで直面していた「飢餓」「疫病」「戦争」という3つの問題を克服した今(または近未来)、人類の英知は、人類自身のアップデート(遺伝子工学などによる死の克服など)に向かう、というものです。

しかし皮肉にもその予言から2年後の2020年、新型コロナウイルス感染症が人類を襲いました。人類は「疫病」を克服したとの彼の見立ては、近視眼的だったのでしょうか。

歴史家や未来学者の予測は、外れることも多いです。19世紀末~20世紀前半のイギリスのSF小説家H.G.ウェルズは、戦車や戦闘機、はては核兵器の登場までを予言したと言われていますが、第一次世界大戦を「すべての戦争を終わらせるための戦争」と予言しました。しかし現実は、第一次世界大戦は、第二次世界大戦というさらに大規模な戦争を引き起こしました。

現代でも民主主義と資本主義の最終的な勝利を予測したフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』、単純に分類した文明同士が衝突する世界観を描いたサミュエル・P・ハンチントンの『文明の衝突』など、批判にさらされている予言書は多いです。

 

疫病は人災であるという見方

冒頭のユヴァル・ノア・ハラリ氏の、人類は「飢餓」「疫病」「戦争」を克服しつつあるという見立ては、やはり楽観的であるように思えます。ただし、彼は「疫病」に関し、次のような指摘を行っています。

「新たなエボラ出血熱が発生したり、未知のインフルエンザ株が現れたりして地球を席捲し、何百万人もの人命を奪うことがないとは言い切れないものの、私たちは将来そういう事態を、避けようのない自然災害と見なすことはないだろう。むしろ、弁解の余地のない人災と捉え、担当者の責任を厳しく問うはずだ」

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来(上)23~24ページ

この予言は、当たったといっていいでしょう。人々は今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延を、抗えない自然の驚異だとか、神の逆鱗に触れたなどとは考えていません。人々は中国・武漢での初期対応の過ちを糾弾し、WHOの怠慢を厳しく問い、各国や各自治体の長の感染症対策についての是非を論じあっています。

 

マーケティングコンセプトの変遷

コロナショックが衝撃的すぎて、一見、「SDGs」や「エシカル消費」といったトレンドは立ち消えになったかのように思えます。しかし長期的にはむしろ、コロナショックという「人災」を機に、グローバルな問題を身近に感じ、地球規模の問題をコントロールするためにどうすればいいかということに関心を寄せているように思います。

SDGs、ESG投資、CSR、エシカル消費…様々なワードがトレンドになりましたが、マーケティングコンセプト(市場に対する企業の考え方やアプローチのスタンス)の視点からすると同じカテゴリーに入ると思います。それは「社会志向」です。

マーケティングコンセプトは、時代とともに次のように変遷してきました。

マーケティングコンセプト 時代 時代背景 テーマ
生産志向 1900~1930年ころ モノ不足で、作れば作っただけ売れた 生産性の追求・生産効率の向上
販売志向 1930~1950年ころ 技術革新による大量生産で所得水準が向上 大量生産品を効率的に販売すること
消費者志向 1950年~現在 経済が成熟化し、消費者の嗜好が多様化 顧客ニーズの追求
社会志向 現在~未来 企業が社会全体へ与える影響力が大きくなる 企業も社会の一員であるという認識のもと、社会責任を果たす

2009年版中小企業診断士試験クイックマスターシリーズ マーケティング』9ページより作成

産業革命から20世紀初頭にかけては、市場全体の需要が供給を上回り、生産するだけ製品が売れていくため、製品の生産性向上を追求するだけで良かったのです(生産志向)。しかし徐々に市場全体の供給量が需要量を上回り、製品の販売が頭打ちになると、いかにして販売業者に売り込むかという販売方法に目が向けられるようになります(販売志向)。

やがて経済が成熟し、消費者の嗜好が多様化してくると、顧客ニーズを追求することが求められていました(消費者志向)。

しかし現在、企業も消費者だけに目を向けていてはいけないという考えが浸透しています。地球温暖化やグローバル労働者の搾取、下請業者の圧迫などの問題の企業の責任が浮き彫りになるにつれて、企業はこれらの社会的課題に目を向け、社会的責任を果たさなければなりません。これを「社会志向」と言います。

 

社会志向の諸概念

 社会志向の概念は以下のものがあります。

ワード 概念 要望
SDGs 持続可能な開発目標。貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけている。 国連から
ESG 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの。今日、企業の長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方。 投資家から
エシカル消費 消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと。 消費者から

いずれも社会的課題の解決を目指した概念ですが、SDGsが国連から、ESGが投資家から、エシカル消費が消費者からの視点であることを覚えておけばよいでしょう。

 

コロナショックは社会志向を加速化する

 14世紀に蔓延した黒死病を研究した歴史家・村上陽一郎は、黒死病の影響について次のように述べています。

「黒死病そのものは、時代の担っていた趨勢のなかから、次代へ繋がるものをアンダーラインしたうえでそれを加速させ、その時代に取り残されるものに引導を渡すという働きをしたにせよ、次代を造り出す何ものかを積極的に生み出したわけではなかった」

村上陽一郎『ペスト大流行―ヨーロッパ中世の崩壊―』

今回のコロナショックも、次代へ繋がるものを加速させ、取り残されるものに引導を渡すでしょう。次代へ繋がるものといえば、リモートワークをきっかけにした「働き方改革」かもしれないですし、今回テーマとした「社会志向」であると言えるでしょう。

 

アフターコロナはソーシャルビジネスの時代へ

歴史的視点から今、われわれは「社会志向」の時代にいることを見てきました。これはコロナショックによっても変わらない、いやむしろ加速していくものだと考えられます。人々がコロナショックを機に、新型コロナウイルス感染症の蔓延という「社会問題」(前述のようにコロナ禍は天災ではありません)に目を向け、人々が連帯して解決する必要性に気づかされたからです。今は新型コロナウイルス感染症で頭がいっぱいな私たちも、もしこの問題が解決されたなら、次は地球温暖化問題、プラスチック廃棄問題、食糧・水問題などの社会問題に目を向けるでしょう。その時に、社会的責任を果たすだけでなく、果敢にビジネスを通して社会問題を解決する「ソーシャルビジネス」に商機を見出だすことが、アフターコロナの企業の在り方だと思われます。

 

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

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