展示会といえば、見込客(リード)を獲得したり、未認知客を認知客に引き上げたりするための伝統的な手段であり、ブランドの重要なコンタクトポイントです。しかし昨今のコロナ禍で、展示会を取り巻く状況が変わりつつあります。
独・ハイデルベルグ社は、drupa2021への出展を取りやめることを決めた。
来年4月時点での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が不透明なこと、そして世界的な移動・旅行制限や衛生規制によって来場者が大幅に減少するという同社自身の予測に基づき、この判断を下した。
(日本印刷新聞社Web2020年7月8日)
世界最大の印刷機材展示会drupa(ドルッパ)は、1951年の第1回から3~5年おきにドイツ・デュッセルドルフで開催されてきました。直近のdrupa2016においても、世界54カ国1837のメーカー・ベンダーが出展、約26万人が来場しています。その規模、イベント性、そして最新技術を競う場であることから「印刷産業のオリンピック」とも呼ばれています。
そのdrupaですが、コロナ禍で次回開催が2020年から2021年に延期になりました。ところがこのたび、世界最大の印刷機メーカーであるハイデルベルグ社が出展を取りやめてしまいました。このニュースの後、マンローランド・シートフェッド、小森コーポレーションといった有力オフセット印刷機メーカーも出展取りやめを決めています。今後も出展を見合わせるメーカーが現れるかもしれません。そうなるとdrupa2021自体の開催も危うくなります。
ハイデルベルグ社がdrupa出展を取りやめた理由は、コロナ禍以外にもあると思われます。
一つは、今のネットワーク環境ならば自社単独の「バーチャル展示会」も可能であるという判断です。何もdrupa出展のために莫大な出展料やブースの設営費、印刷機の運搬費用などをかけなくても、自社工場にある印刷機やシステムをインターネットによるライブ中継で全世界にデモンストレーションすることは可能です。ユーザー(印刷会社のスタッフ)はドイツまで行かずともデモンストレーションやプレゼンテーションを受けることができます。
もう一つの理由は、展示会の出展というマーケティング手段が、時代に合わなくなってきたことです。数十万人が来場するブースでは、ワン・トゥ・ワンのきめ細やかなコミュニケーションが難しいです。展示会は見込客(リード)の獲得に適しているといいますが、数億円、数十億円という設備投資の購買決定者は一握りです。マス・マーケティングを行うよりも、購買決定者に直接コミュニケーションを取り、各地のオープンルームに招待するほうが効果的です。
ハイデルベルグ社のライナー・フンツドルファーCEOは次のように述べています。
「我々は成長する市場地域でのイベントだけではなく、より緊密に、そして個別にみなさんとのコミュニケーションを確保するために、新しいバーチャルな展示会のコンセプトにいっそうの投資をしていく。これは、我々が印刷市場からの期待に一貫して対応していけることを意味する」
(日本印刷新聞社Web2020年7月8日)
このコロナ禍でリモートワークが進んだように、移動のコストがかかる展示会ビジネスは曲がり角に来ています。それは印刷業界だけではなく、あなたの業界の展示会にも当てはまるのではないでしょうか。ネットワークを介し、遠隔の顧客とダイレクトにつながる新しいマーケティング方法が今後の主流となっていくでしょう。
BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ