ここで、サステナビリティについて少し説明をしておきます。サステナビリティとSDGsは混同されがちですが、同じものではありません。
ただ、相互に補完性のある関係です。
サステナビリティは、社会・環境・経済などの、マクロ事象に関するものを指していますが、SDGsはそれを更に深堀して17項目に分けたものです。
そして、SDGsはサステナビリティの概念を基に、何ができるのかを問うことが肝要になっています。
具体的には、経営ビジョンや経営方針、そして経営戦略とどう関連させているかということを見られる訳です。特に具体的な計画性が重視されますし、その場合の対象となるのは労働者や消費者です。
そのため、企業としては経営幹部や経営企画部門が主体となって対応すべき内容となってきます。
SDGs 構成図
これに対して、ESGはサステナビリティを投資家や法律等を管轄する規制当局向けによりフォーカスされた内容であり、具体的にどうあるべきかを問う内容であることが特徴的です。特に、透明性のある情報開示と具体的な評価が重視されます。
そして、投資家も含めたステークホルダーなどの外部に対して発信していくことが主となる内容のため、企業では主に経営企画部門や広報・IR部門が対処することになります。
また、マーケティングに携わる部門においては、経営幹部・経営企画・広報・IRといった各部門と連携して情報収集を行い、サステナビリティ・ESG・SDGsについて常に最新の動向を調査した上で関係部門へ発信し、それぞれの部門で必要な対策が打てるように、率先して社内外で動いていかなくてはなりません。
これらを踏まえて、サステナビリティ・ESG・SDGsについては、それぞれの関係性と構成として下記のように図にまとめて考えると、理解がしやすいかもしれません。
このように、サステナビリティ・ESG・SDGsについては、企業のマーケティング的視点として、幅広く理解し、なおかつ対処していかなければならないことが理解できます。
では、改めて、前述のマッシュHD社 は、サステナビリティ戦略によって、どのような効果が期待できるのかを検討してみます。
用いるフレームワークは、前編の3C分析です。
その結果は、下記の通りとなります。
アパレルは人気産業である反面、小売業としての厳しさを同時に併せ持つところもあるため、離職率が高くなる傾向があります。
現在は感染症問題が影響して人手不足ということが目立たなくなっていますが、この感染症問題が解消された段階で、日本の人口構成比を考えると間違いなく人手不足となることは明らかです。
そのような中においても、今回のサステナビリティ戦略によって社内の労働環境が改善されることで、従業員の長期就業が期待できます。
人材の育成には時間がかかりますし、採用と離職にも当然費用・時間の両面でコストがかかりますので、従業員の就業状況が改善することは、結果として業績にも影響してきます。
また、えるぼし認定を取得している企業として、競合企業と比較しても優秀な人材が獲得できる効果が期待できます。そして、これは女性従業員だけでなく、男性従業員に対しても効果がある施策です。
なぜならば、女性従業員の就業環境が優れている企業は、労働環境が整備された、いわゆるホワイト企業として社会的に認識されるため、男性従業員にとっても好ましい企業であると判断されるのです。
昨今ではブラック企業には若年層の労働者が集まらず、優秀な人材が競合企業へ流れるため、業績を伸ばせなくなってきています。
また、みずほ銀行のようにサステナビリティについて自ら取り組む必要がある金融機関にとっても、サステナビリティの趣旨を理解し、整備された企業に対して融資を積極的に行う制度を設け始めているため、資金調達においても有利な状況が生まれやすくなっています。
そして、これらの結果により、ホワイト企業としてのブランド・イメージが獲得され、競合企業に対してのブランド力向上が期待できることになります。
以上のように、女性活躍推進法が与える影響は様々な方面に及ぶものであり、企業のマーケティング姿勢として、戦略的に取り組んでいくことが必要であることがわかります。
マーケティング・経営企画・IR担当者にとって、サステナビリティ・ESG・SDGsへの対処は非常に苦労の多いものではありますが、その反面、企業規模の大小にかかわらず、平等にブランド力を獲得するチャンスでもあります。
企業として取り組める範囲から、ぜひとも検討を開始してみていただければと思います。
■武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師
経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/