マクドナルドは2011年に当時の過去最高益を記録したのち業績は下降線をたどり、2015年12月期には347億円の赤字にまで落ち込みました。当時のマスコミや識者からは「マクドナルドのビジネスモデルは賞味期限切れ」とまで揶揄されました。しかしマクドナルドは2015年5月に「ビジネスリカバリープラン」を発表、10月には低迷する大手企業を次々と立て直した実績を持つ足立光氏をマーケティング本部長に招き、改革に乗り出します。その結果2017年12月期には過去最高益を更新し、鮮やかなV字回復を遂げました。
なぜマクドナルドの業績はここまで低迷したのか、そして回復したのか、考察してみましょう。
マクドナルドのアイデンティティは「遊び心」
足立氏がマーケティング本部長に就任し、数カ月の社内外とのインタビューなどで感じたことは、「今のマクドナルドには『マクドナルドらしさがない』」ということでした。
マクドナルドらしさとは何か。マクドナルドは「Fun Place to Go」(行くと楽しい場所)を理念としています。足立氏に言わせると、マクドナルドの競合は東京ディズニーランドです。行って楽しい、遊び心のある商品とサービス、世界観を提供しているのが本来のマクドナルドです。
しかし当時のマクドナルドは、食肉賞味期限偽装問題などで世間やマスコミからバッシングを受けていたこともあり、「遊び心」が欠けていました。サラダや低カロリーなどの健康志向を打ち出し、キャンペーンも無難なものになってしまっていました。
「『Fun Place to Go』を打ち出しているところこそがマクドナルドの特有のアイデンティティ」(足立氏)。マクドナルドは、本来のアイデンティティに立ち戻り、次々と面白い、茶目っ気のある、チャレンジングなキャンペーンを企画します。
「絶対においしくない」チョコポテトの発売
例えば「チョコポテト」の発売。マックポテトにチョコレートをかけた商品で、よく考えると商品自体は手の込んだものでもないのですが、「おいしい」「まずい」という賛否両論が社内でも沸き起こり、「これは話題になる」と考え、発売を決定します。テレビCMでは「絶対においしくない」というフレーズまで飛び出し、消費者の関心をくすぐりました。チョコポテトは大ヒット商品になります。
その他、「グランドビッグマック」「ギガビックマック」(いずれもレギュラー商品のビックマックの肉やパンを増やしたもの)、「裏メニュー」(レギュラー商品のトッピングを変えたメニュー)、「怪盗ナゲッツ」(「ゲッツ!」の決め言葉で有名なダンディ坂野さんを起用したナゲットのプレゼントキャンペーン)など、主力のレギュラー商品をベースに企画化したキャンペーンが次々にヒットします。
PRとSNSをコミュニケーション戦略の中心に据える
その他に大きく変更したのは、コミュニケーション戦略です。
1つは純粋広告ではなく、キャンペーンや新商品の記事をメディアに書いてもらうよう、プレスリリースを数多く打ちました。当時はネットにネガティブな記事ばかりが上がっていたのですが、プレスリリースを多く打つことで、ネガティブな記事は検索リストの下位に沈んでいき、やがてポジティブな記事が上位を占めるようになりました。
マクドナルドでマックチョコポテト。はっきり言ってうまい!!超うまい!北海道のお土産でチョコ付きポテトチップスあってうまいけど、コレはアツアツでうまさ倍、更に倍ドン!期間限定みたいやから食べとかないと! pic.twitter.com/0onqSZe2f2
— 西尾(X-GUN) (@nicchamen) 2016年2月16日
2つめは、SNSによる口コミを活用したことです。顧客離れといっても、当時のマクドナルドには150万人~200万人が来店していました。そのうち1%にでもツイートしてもらえば、1万5000~2万ツイートにもなります。ツイートやインスタ映えする商品や企画を次々に打ち出したのは、前述のとおりです。
アンチにおもねらない強い姿勢
マクドナルドのマーケティング戦略・ブランド戦略についてみてきました。根底にあるのは、ブランドが低迷している時も、ファンを信じアンチにおもねらない強い姿勢であると思います。
マクドナルドは一時期、消費者やマスコミから猛烈なバッシングを受け、ブランドは地に落ちているように思えました。しかしマクドナルドには、業績が厳しい時にも支持してくれる「ラバー」(ファン)が多数いたのです。
マクドナルドやスターバックスのような強いブランドには、必ずと言っていいほど、多くの「ラバー」(ファン)と、「ヘイター」(アンチ)がいます。
マーケティング理論の大家・フィリップ・コトラーは「ヘイター」は「ラバー」を刺激する「必要悪」と喝破しています。「好意的な意見と批判的な意見の両方がなければ、ブランドに関するカンバセーションは面白みのないものになり、人々をあまり魅了しなくなる」ともコトラーは言っています。
本来のブランド・アイデンティティに立ち戻る
マクドナルドのブランドが低迷している時、ネット上には「ヘイター」が勢いを増し、「ラバー」は声を失っていましたが、そんな時、ヘイターの意見におもねり、ブランド・アイデンティティを変更するようなことをすれば、本当に大切な「ラバー」を失ってしまいます。
足立氏は最初に「名前募集バーガー」というキャンペーンを行ったときに、約500万通もの応募があったことで、「マクドナルドは大丈夫」と感じたそうです。「これだけのラバーがついているのだから、本来のブランド・アイデンティティに立ち戻ろう」…こういった姿勢が、マクドナルドのV字回復につながったのだと思います。