商品の本体を安く売って顧客を囲い込み、その後の消耗品やサービスで儲けるビジネスモデルは、1903年にカミソリの替え刃を発明したジレットが最初だといわれています。このビジネスモデルは色あせるどころかあらゆる業界に活用されてきました。そしてアマゾンは近い将来、このビジネスモデルで購買行動の大変革をもくろんでいます。解説しましょう。
消耗品で大きく儲ける「替え刃モデル」
替え刃式のカミソリの本体を一度購入してしまえば、ジレットの本体ならばジレットの替え刃を、シックの本体ならばシックの替え刃を買い続けることになります。本体購入によって一度掴んだ顧客を囲い込み、恒久的に利益を上げられるこのビジネスモデルは「替え刃モデル」ともいわれています。
このビジネスモデルは100年以上にわたって、あらゆる産業で応用されてきました。例えばプリンターは、基本的に一度購入したメーカーのトナー/インクを使い続けることになります。スマートフォンと通信料なども好例です。そのほか家庭用ゲーム機とゲームソフト、コーヒーマシーンと粉末カプセルなどさまざまな例があります。
ボタン一つで消耗品を補充
この「替え刃モデル」の究極型といえるのが、アマゾンが構想する「ダッシュ補充サービス」(DRS)ではないでしょうか。
アマゾンは2015年、「ダッシュボタン」と呼ばれるWiFi接続端末を発売しました。特定商品を注文する機能だけを持った文字通りのボタンで、例えば洗濯機のそばにダッシュボタンを置いておけば、洗剤が切れたときにダッシュボタンを押すだけでアマゾンへの注文が完了します。アマゾンは洗剤だけでなく、ペーパータオル、紙おむつ、そしてまさにジレットのカミソリの替え刃などさまざまな日用品のボタンを用意しています。
「ダッシュ補充サービス」は究極の替え刃モデル
アマゾンのダッシュボタンは「ダッシュ補充サービス」(DRS)の最初の一手にすぎません。将来はダッシュボタンの機能を持ったアプリケーションを製品そのものに組み込めるようにする予定です。つまり洗濯機や冷蔵庫が自ら洗剤や牛乳の補充時期を判断して自動発注してくれるのです。当然全部アマゾン経由です。ダッシュボタンやDRSのアプリケーションは無償で提供して消費者やメーカーを囲い込み、自身は消耗品で儲けようとする「ダッシュ補充サービス」は、究極の「替え刃モデル」といえるのではないでしょうか。
脱コモディティ化と体験型ストアへの転換を
このサービスが普及したら、あらゆる補充型商品がDRSによって家庭に自動補充されます。例えば洗剤、牛乳、紙おむつ、ドッグフード、電球、掃除機のパック、エアコンのフィルター等々です。
そうなると困るのはスーパーやホームセンターなどの小売業です。あらゆる補充型商品がアマゾン経由になるなか、小売はどうやって生き残ればいいでしょうか。
これからの小売は、まさしく日用品(コモディティ)からの脱却が必要になります。
例えば文房具店では、すでにセレクトショップ化したり、文房具を含むライフスタイルを提案するショップなどに変革している店が増えています。そのなかで、コモディティ、特にコピー用紙やボールペンなどの補充型商品を並べているだけの店舗は、時代の波に取り残され、淘汰されるかもしれません。
ネット通販の勢いが増す中で、リアル店舗は何ができるのかを常に探る姿勢が必要でしょう。