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Case Study

ダイソンがエンジニアカンパニーなのにマーケティング巧者である理由とは!?

投稿日:2018年3月2日 更新日:

ダイソンの掃除機

1993年に設立以来、掃除機、扇風機、ドライヤーといったコモディティ(汎用品)において革新的な製品を打ち出し、成長を続けるダイソン。今回はダイソンのマーケティング/ブランド戦略について考察します。

プロダクト重視のブランドイメージ

ダイソンのエンジニアリングのイメージ

ダイソンのブランドイメージは徹底したプロダクト志向、技術志向です。ダイソンのトップやマネージャーも、ダイソンは卓越した製品開発能力が市場に受け入れられているのであって、マーケティングの力ではないということを強調します。

「社内ではマーケティングという言葉は一切使わない」「ダイソンはエンジニアリングカンパニーです」と話し、「マーケティングをしないこと」が成功の秘訣とまで言い切っています。

オーナー兼チーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏も自著で「ブランドは2つの製品が同じ場合にのみ重要。技術的に優れていれば重要ではない」と述べています。

確かにダイソンはエンジニアリングカンパニーといえます。イギリスの本社の社員8000人のうち3分の1はエンジニアか科学者。売上高研究開発費比率は約12%(2015年度)と、日本の競合メーカーを圧倒しています。そもそも同社の100%の株式を所有するダイソン氏自身がチーフエンジニアのため、技術開発に対して潤沢に、柔軟に投資をすることができています。

エンジニアリング志向×マーケティング戦略

ダイソンの掃除機

しかし、エンジニアリング(技術)志向とマーケティング志向は相矛盾するものではありません。むしろダイソンは競合他社からは「マーケティング巧者」といわれています。
その象徴が「吸引力の変わらないただひとつの掃除機」とうたったテレビCMでしょう。

CMの特徴の一つは、業界団体の自主ルールで他社製品との比較を打ち出しにくい日本の競合メーカーをしり目に、挑発的で強力なメッセージを発信していることです。「ただひとつ」「他のどの掃除機よりも」といった他社を意識したキャッチコピーは、「最も強力な吸引力を持つロボット掃除機」など、新たな製品のCMにおいても積極的に使われています。

もう一つ、このCMの特徴は、徹底して製品の技術にスポットを当てているところです。CMの多くはタレントも音楽も使わず、ナレーターが淡々と製品の優位性を述べながら、製品の動作や構造を映し出します。あえてトーンを抑えた製品紹介中心のCMが、ダイソンのエンジニアリングカンパニーとしてのブランドを高めているのです。

強力なプロモーションとチャネル力

ダイソンの旗艦店

表参道にあるダイソンの旗艦店

またダイソンは、マーケティングをしないといいながら、強力なプロモーションとチャネル力を有しています。日本においても売上上位150店舗の家電量販店にダイソンのスタッフを派遣しています。売り場づくりも家電量販店任せではなく、専門のクリエイティブチームが、コピーの打ち方から什器のサイズまでをカスタマイズしたコーナーを設置しています。2015年には東京・表参道に直営の旗艦店をオープンしています。

奇抜なデザインがブランドを想起する

最後に製品戦略と価格戦略について触れます。ダイソンの製品の一番の特徴は、奇抜で独特な形状でしょう。羽のない扇風機、ヘッド中央に穴が開いたヘアドライヤー、ボール状の筐体の掃除機など、どれも奇抜なデザインです。

 

ダイソンは、製品の形状は機能を追求した結果であり、デザインとエンジニアリングを一体化した結果であるとしていますが、まさにそういったイメージ戦略が、ダイソンの「エンジニアリングカンパニー」としてのブランドに寄与していると思われます。簡単にいうと、製品の奇抜なデザインが、「ダイソンの技術は独自性があるな」というブランド想起につながるのです。

これらのブランディングにより、ダイソンの価格戦略はコモディティ(汎用品)としては異例の高価格戦略をとることができています。例えばドライヤーは4万円台後半です。
掃除機、扇風機、ドライヤーといったコモディティ製品においても、ブランディング次第では高価格戦略をとることができるのです。これは大手・中小を問わず、メーカーにとって示唆に富んでいるのではないでしょうか。

技術至上主義と思われがちなダイソンですが、製品・価格・チャネル・プロモーションのマーケティングミックスが見事にかみ合っています。奇抜な形状の製品も、コモディティとしては異例の高価格も、全国の大型家電店舗を押さえた販売網も、技術紹介に特化したCMも、すべて綿密に設計されたマーケティング戦略といえます。

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