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Branding Method Case Study

【モノづくりのブランド化事例】つくるだけでは選ばれない時代で、地域のモノづくりを再生する。

投稿日:2026年1月24日 更新日:


“何をつくるか”から“なぜつくるのか”へ

日本のモノづくりは、素材の選定から最終の仕上げに至るまで、一切の妥協を許さない姿勢によって高く評価されてきました。しかし、グローバル市場の動きが加速するなか、品質の高さだけでは競争を勝ち抜きにくい状況が生まれています。優れた技術を持っていても、その価値がしっかりと語られなければ、選ばれる理由として成立しにくくなっているためです。そのため、企業には“何をつくるか”ではなく、“なぜそれをつくるのか”という思想を提示し、共感を喚起するブランドの物語を打ち出す姿勢が求められています。

ブランドとは、単なる装飾やデザインではなく、企業の根底にある考え方そのものを表す存在です。理念を可視化し、提供価値を丁寧に言語化することで、顧客だけでなく、採用候補者や取引先といった多様なステークホルダーからの支持も得やすくなります。
とりわけ産地ブランドは、地域全体が持つ文化や技術を一つの物語として束ねることで、単独企業では到達しにくい規模感の認知を生み出します。その結果として、地域産業を活性化させ、ローカル経済を押し上げる強力な推進力にもなっていきます。

事例紹介

ここからは、成功しているブランド事例をいくつかご紹介します。

燕三条(新潟県)

■特徴
金属加工の一大産地として世界に名を馳せる地域。刃物・洋食器・工具などの分野で数百社の工場が集積し、極めて高精度な研磨技術や鍛造技術を共有している。分業が巧みに成立しており、「燕三条でつくれないものはない」と言われるほど対応力が幅広い。近年はアウトドア用品やデザイン系ブランドとの協働により、若い世代からの支持が急増している。

■主な取り組み
・工場見学イベント「燕三条 工場の祭典」
製造現場を一般公開し、打刃物の研ぎ作業や鍛造工程を実際に見せる取り組み。
参加者が2万人を超える年もあり、産地への理解を深める場として大きな成果を上げている。

・アウトドアブランドとの共同開発(Snow Peak・UNIFLAME など)
キャンプギアの「チタンダブルマグ」など、燕三条の金属加工技術を活かした代表製品が複数誕生。
世界市場での知名度向上に寄与している。

・産学連携による新素材研究
長岡技術科学大学と共同でチタン加工の精度向上に挑むプロジェクトを推進中。
航空機部品への応用も視野に入れた研究が進む。

・地域企業のブランド刷新支援
包丁メーカー「藤次郎」など、ローカル企業のグローバル化を後押しする支援制度を展開。
パッケージリニューアルや海外PRに繋がっている。

・動画アーカイブ化プロジェクト
職人の金属研磨技術を「記録文化財」として残す取り組みに着手。
世界向けに英語字幕版の制作も進む。

丹波立杭焼(兵庫県)

■特徴
日本六古窯に数えられ、800年以上続く焼き物文化を持つ産地。素朴でありながら現代性を感じさせる器が特徴で、料理人・デザイナーからの需要が高い。窯元の個性が際立ちながらも、地域としてブランドを統一する取り組みが進み、新しい丹波焼のイメージが形成されつつある。

・窯元周遊イベント「丹波焼陶器まつり」
150軒を超える窯元が同時に開放され、作家と直接対話しながら器を選べるイベント。
年間10万人以上が訪れ、地域の経済効果にもつながっている。

・料理人とのコラボレーション
京都の名料理店「祇園さゝ木」などが丹波焼の器を採用。
器の魅力が料理の世界で再評価され、新たな需要につながっている。

・若手作家育成プロジェクト
「丹波焼次世代育成塾」を設置し、20〜30代の陶芸家が集まる仕組みを構築。
企画展の開催や販路支援を行っている。

・ECプラットフォーム整備
オンライン陶器市を毎年開催し、海外ユーザーの購入も増加。
コロナ期以降、売上が大幅に伸びた窯元もある。

現代デザインとの共創企画
照明ブランドや建築家と共同で“インテリアとしての丹波焼”を提案するプロジェクトが進行。
器以外の領域へ展開が広がっている。

鯖江(福井県)—眼鏡産地

■特徴
世界的なメガネフレームの生産地で、高精度チタン加工では他国の追随を許さない。数百工程に分かれる製造プロセスは熟練職人の技に依存し、デザイン性と機能性の両立で世界から高い信頼を獲得している。ハイブランドのOEM供給も多く、産地全体が“世界基準の品質”として認知されている。

・地域ブランド「THE SABAE」
産地横断で作るプロダクトブランド。ミニマルなメガネフレームやキッズ向け高性能フレームなど、
鯖江品質を体感できるラインナップを展開。

・Apple・Tom Fordなど著名ブランドのOEM供給
世界の一流ブランドが採用する高精度フレームを提供。
鯖江がハイエンド市場で絶対的な信頼を得る理由となっている。

・鯖江職人の学校「SABAE MEGANE SCHOOL」
研磨・ロー付けなどの職人技を学べる専門教育を整備。若手人材の育成が進む。

・工程公開プログラム「FACTORY TOUR」
フレームが生まれる数百工程を見学できる仕組みを構築。
企業の透明性を高め、産地ファンを増やしている。

・サステナブル素材開発(バイオアセテート)
イタリアMazzucchelli社と連携し、生分解性素材を使用したフレーム開発を強化。

桐生(群馬県)—テキスタイル産地

■特徴
1200年以上の歴史を持つ織物産地で、ジャカード織や先染めなど高難度の技法を高度に実装している地域。GUCCI、PRADA など海外メゾンが採用する生地を提供するなど、国際的な存在感が強い。デジタル技術の導入により、小ロット対応やアート系デザインにも柔軟に応じるクリエイティブな産地へ進化している。

・世界ブランド向け生地提供(GUCCI・PRADA・ISSEY MIYAKE など)
高難度のジャカード織や光沢素材が海外メゾンで採用され、産地の技術価値を世界へ示す結果につながっている。

・産地合同展示会「桐生テキスタイルフェア」
国内外のデザイナーが来場し、新シーズンに向けた生地選定を行う場。産地全体の受注機会を創出。

・デジタル織機導入による高付加価値化
小ロット・短納期に応えるため、最新の織機を導入する企業が増加。アート系ブランドとのコラボも進む。

・デザイナーレジデンス制度
若手クリエイターが桐生に滞在しながら生地制作を行えるプログラム。新しい文様や作品が次々と生まれている。

・伝統技法アーカイブ化
“桐生唐織”など歴史的技法のデジタル記録を進行し、次世代の技術伝承へつなげている。

美濃和紙(岐阜県)

■特徴
1300年以上続く和紙産地で、透明感のある繊維構造と高い耐久性が特徴。本美濃紙は世界遺産に登録され、国際的な注目度が非常に高い。照明・建築・アートなど多分野との連携が進み、伝統工芸の未来像を更新し続けている。

・照明ブランド「ISSHO(イッショ)」との共創
和紙の透け感を活かした照明シリーズが世界のデザイン誌で紹介され、国際市場で話題になった。

・文化体験型ワークショップ
紙漉き体験を通じて、手仕事の価値を伝えるプログラムを提供。観光客の来訪が増え、地域振興に寄与している。

・世界遺産のストーリー発信
“本美濃紙”の制作工程を映像化し、海外向けに英語版を配信。和紙文化の認知を拡大している。

・SDGs型素材研究(耐水和紙・強化和紙など)
食品包装や建材への応用を目指し、用途の拡大が進む。

・アートフェア出展(ニューヨーク・ミラノ)
アーティストとのコラボ作品が国際展示会で高評価を獲得している。

東大阪(大阪府)—精密加工・町工場ブランド

■特徴
“日本の町工場の聖地”と呼ばれ、金属・樹脂・板金・バネ製造まで幅広い高度加工技術を持つ企業が密集している地域。世界シェア上位のニッチトップ企業が多数存在し、研究開発支援力の高さも強み。超短納期・高精度という大手メーカーが求める条件に応えることで、揺るぎない信頼を築いている。

・宇宙ベンチャー「植松電機」や JAXA との部品開発協力
ロケット部品の切削加工など、東大阪の町工場が宇宙領域のものづくりを支える構図が定着しつつある。

・地域ブランド認定「東大阪ブランド」制度
歯科用工具・自転車部品・バネ製品など、世界シェア上位を誇る企業を公式に認定し、プロモーションを強化。

・超短納期プロトタイプ製造
「ザ・試作屋」などの企業が1日で試作品を納める仕組みを構築し、大手メーカーの研究開発を支援。

・学生向けオープンファクトリー
近畿大学と連携して工場巡りツアーを開催し、若手技術者の就職促進につなげている。

・IoT導入による町工場のスマート化
設備稼働を見える化し、生産性を高める「スマートファクトリー東大阪モデル」を推進中。

別府竹細工(大分県)

■特徴
日本最大級の竹細工産地で、繊細な編み技術と造形力の高さが特徴。伝統的な日用品だけでなく、アート・インテリア・建築まで活用幅が広がっている。再生可能素材である竹を活かすことで、サステナブル文脈でも注目されている。

・国際展示会「ミラノサローネ」への作品出展
竹細工のアート作品が海外デザイナーから注目を浴び、現地ギャラリーとの契約につながった事例もある。

・日用品ブランドとの共同開発
竹を使ったバスケットや照明を「ACTUS」「IDÉE」などのインテリア企業へ提供。都市生活者の需要が拡大している。

・観光融合の体験型ワークショップ
竹編み体験や工房見学がインバウンドに人気で、年間数万人が訪れる地域コンテンツへ成長。

・サステナブル素材開発
竹炭や竹繊維を使った新素材研究が進み、アパレルやアート領域へ可能性が広がっている。

・若手作家のキャリア支援
別府竹細工職業訓練校の卒業生が全国で活躍し、新世代の職人ブランドが続々誕生している。

成功するブランドの共通点

成功している産地ブランドには、一貫して価値を可視化する姿勢が見られます。製造工程を公開したり、職人が技術の背景を言語化したりすることで、専門性を“伝わる形”へ変換し続けている点が特徴です。また、異業種との協業を積極的に進め、新しい解釈を柔軟に受け入れる姿勢も共通しています。さらに、地域内の企業が連携し、産地全体として魅力を束ねることで、個社では得られない規模感の認知を生み出しています。加えて、若手育成やサステナブル領域への投資など、未来を見据えた取り組みが継続されている点も、長く支持されるブランドに共通する重要な要素と言えます。

失敗するブランドの特徴

ブランドづくりで失敗する企業には、いくつかの明確な傾向が見られます。まず、自社の価値を自ら理解できていない状態が大きな問題となります。技術や歴史を語れる人材が社内におらず、言語化が進まない場合、どれほど高品質な製品であっても市場から正しく評価されにくくなります。加えて、SNSやイベントでの発信が単発で終わり、継続的なコミュニケーションが欠ける企業もつまずきやすい状況です。ターゲットを広げすぎて “誰のためのブランドなのか” が曖昧になるケースも少なくありません。さらに、産地ブランドにおいては、企業間の利害調整不足によって統一メッセージを発信できず、結果としてブランドが分散する問題が発生します。価値の可視化、継続的な発信、明確なターゲット設定、産地内の共通理解が欠けると、ブランド力はなかなか育ちません。

ブランディングで押さえるべき5つのポイント

① 核となる“価値”を明確にする(機能ではなく思想を定義する)
ブランドの出発点は、“何をつくるか”ではなく“なぜつくるのか”。
製品スペックではなく、企業が大切にしている価値観・哲学を言語化する作業が必須となる。

例:
Apple →「人々の創造性を解放する」
Patagonia →「地球環境を守るためのビジネス」
価値の言語化が曖昧な企業ほど、発信やデザインがブレやすい。

② 競合と比べた“違い”を1行で語れる状態にする
ブランドは差別化の装置であり、比較される前提で設計する必要がある。
機能や価格ではなく、選ばれる理由をワンフレーズで説明できるかが重要になる。

例:
“世界一軽いチタンマグ”
“修理しながら10年以上使える家具”
認識される差がなければ、ブランドは存在していないのと同じ扱いになる。

③ 体験を統合する(ロゴ・言葉・接触点を一貫させる)
ブランドは「見た瞬間・触れた瞬間」に伝わる体験価値で決まる。
ロゴ・色・写真のトーン、SNSの言葉遣い、店舗やサイトの雰囲気まで、
接点すべてを一貫した世界観でまとめることがファン化の要となる。

例:
無印良品の“語らないデザイン一貫性”
Starbucks の“第三の場所”を徹底した空間設計
認知は断片ではなく“つながり”で生まれる。

④ ストーリーを語る(技術より先に“意味”を伝える)
人は理由やストーリーに共感して商品を選ぶ傾向が強い。
“作り手の想い・背景・こだわり”を物語として伝えることで、機能以上の価値が生まれる。

例:
燕三条:職人の研磨工程を公開し、技術の物語を可視化
北欧ブランド:産地の風景や生活文化を前面に出す
ストーリーは“記憶に残るブランド”をつくる強力な武器になる。

⑤ 継続して露出する(単発ではブランドは育たない)

ブランディングは“イベントではなく習慣”。
SNS・展示会・PR・コラボなど複数の接点を継続的に積み重ねることで、初めてブランドが育つ。

例:
スノーピーク → 毎年キャンプイベントを開催しファンを育成
中川政七商店 → 365日コンテンツ発信を継続
露出の継続は信頼を積み上げ、価値の定着につながっていく。

まとめ

日本のモノづくりブランドが力を発揮している背景には、地域に根付いた確かな技術力と、その価値を正しく伝えるブランディングの存在があります。燕三条・鯖江・桐生・東大阪といった産地では、技術を可視化する取り組みや異業種との協働、地域全体でのストーリー発信を積み重ねることで、独自のポジションを築いてきました。成功しているブランドには、一貫した世界観と継続的な発信、そして「なぜつくるのか」を語れる明確な思想が備わっています。

一方で、ブランドづくりに失敗するケースでは、自社の価値を十分に理解していなかったり、発信が単発で終わったり、ターゲットが曖昧になったりする傾向が見受けられます。ブランドは、哲学の言語化から始まり、体験設計、差別化、ストーリー構築、継続的な露出というプロセスを重ねることで成熟していくものです。モノづくり企業こそ、自らの技術や文化を再編集し、社会との新たな関係性を築くブランド戦略を持つことで、未来の可能性をより広げていけると考えられます。

上記はブランド戦略の一部にすぎません。

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■千田 新(ちだ あらた)執筆
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