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Branding Method Case Study

衝撃の変貌。英国の名門JAGUARが提案する新たな自動車メーカーの形とは。

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JAGUAR公式サイトより引用元

2024年11月、JAGUARは衝撃的なリブランディングプロジェクトを発表しました。

自動車業界を取り巻く、予測不可能な潮流の中で

自動車業界は現在、大きな変革の時期を迎えています。特に、地球温暖化対策や持続可能な社会の実現に向け、ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関車から電気自動車(EV)へのシフトが世界的なトレンドとなっています。この「EVシフト」は、各国の政策や技術革新、市場の動向など、さまざまな要因によって加速しています。

例えば、中国ではEVやプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の普及を進めるため、2019年に罰則付きの「ダブルクレジット規制(NEV規制+CAFC規制)」が導入されました。これにより、自動車メーカーは一定の割合で新エネルギー車の販売が義務付けられています。 一方、欧州においても法規制により主要な自動車メーカーがEVシフトを加速させています。

しかし、ここにきて一部のメーカーが「2030年までの全車EV化」の計画を軌道修正する動きも見られます。例えば、メルセデス・ベンツは「2030年までに全車BEV化するという計画を、顧客に押しつけてまで達成しようとするのは理にかなっていない」として、計画の撤回を表明しました。フォルクスワーゲンやボルボといったメーカーもそれに合わせるように計画の見直しを行なっています。

このような動きの背景には、EVの普及に伴う課題も存在します。例えば、EVは電気を動力源としているため、走行中に二酸化炭素を排出しませんが、発電時の二酸化炭素排出量を減らさなければ、EVシフトによる脱炭素化の効果は限定的です。また、EVの車種がまだ少なく、消費者の選択肢が限られていることや、販売価格がガソリン車より高いことも普及の妨げとなっています。さらに、急速充電設備の不足も大きな課題であり、日本では現在急速充電設備が約8,000基と、ガソリンスタンドのおよそ3万ヶ所と比較するとまだまだ十分ではありません。

新たなJAGUARに賛否両論が集まった

このような業界の状況の中、イギリスの高級車メーカーであるジャガーは、全社EVの方向性を維持する大胆なリブランディングを発表しました。2024年11月19日、ジャガーは新しいブランドロゴと前衛的なプロモーションビデオを公開。新しいロゴは、従来の大文字のみのデザインから一新され、大文字と小文字が混在したシンプルなデザインとなっています。また、プロモーションビデオでは、車が一切登場せず、異星の風景を歩く鮮やかなテクニカラーの衣装を着たモデルが登場し、「型を破れ」や「活気を創造せよ」といったスローガンが表示されました。

このリブランディングの発表に対する反響は賛否両論がありました。特に、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、ジャガーの新しいプロモーションビデオに対して「ジャガーはもう車を売っているのか?」とX(旧Twitter)上でコメントし、話題となりました。(これに対しJAGUARの公式アカウントは「ぜひ私たちの車を見てください。ショーで会えるのを楽しみにしています」と大人の対応。)また、ジャガーのFacebookアカウントには、「モトローラのパクリじゃないか?」「化粧品のパッケージみたいだ」「もう二度とジャガーは買わない」といった辛辣な意見も多く寄せられました。

続く同年12月2日、コンセプトモデルも発表。その斬新な姿と「2026年に実際に販売する」というコメントは、さらなる驚きをもって迎えられました。過去のJAGUARのモデルに親しみを持っていた人の中には歴史と伝統を捨てたように感じた人も多かったようで、なんと8割が否定的な印象を受けた、というアンケート結果もあるそうです。

一方で、ジャガーのチーフクリエイティブオフィサーであるゲリー・マクガバン氏は、この反響を歓迎し、「不快に感じるかもしれませんが、それで構いません。世界は立ち止まってはいません。」と述べています。

大胆な選択をしたJAGUARの想いとは

JAGUARの歴史は長く、英国王室御用達の自動車ブランドということもあって、ややコンサバティブな印象を持たれることが多い自動車メーカーです。しかし実は歴史上のJAGUARは革新の象徴でもあったのです。創業者ウィリアム・ライオンズは「A Jaguar should be a copy of nothing 」、つまりJAGUARは何者のコピーでもあってはいけないという言葉を残しています。この理念に沿って作られたモデルは芸術的とされ、その昔、気難しいことで有名だったフェラーリの創業者、エンツォ・フェラーリ氏を「世界で最も美しい車だ」と言わしめた名車「JAGUAR E-type」をはじめ、斬新なデザインで常に世界を驚かせてきたのがJAGUARなのです。


往年の名車JAGUAR E-type。

今回のリブランディングでも、シンプルかつシンメトリーなロゴと直線基調で未来を感じさせるモビリティを見ると、現代と未来の美意識に沿った正統進化である、と言えるかもしれません。これは個人的な推測ですが、過去のデザイン言語を踏襲するのではなく自動車のつくり手としてのスタンスを踏襲し、顧客に芸術的なプロダクトと感動体験を提供するのだ、という強い思いがこのリブランディングの裏にあるのではないでしょうか。実際、今回発表されたティザームービーでは創業者の言葉から引用された「Copy Nothing」をキーワードとしています。

レガシーブランドのリブランディングの難しさ

外部環境や消費者ニーズは常に変化しています。この変化に対応せず現状維持をしていると、どれほど人気を博し一世を風靡したブランドであっても淘汰の道を避けることはできません。伝統と革新の両輪を回し続けることがブランディングの重要なポイントの一つです。しかし、何を残し何を変えるのかの判断を間違えてしまっても、ブランドイメージは毀損します。

今回紹介したJAGUARのリブランディングは、過去の魅力を維持しながら新しいファンを獲得することがいかに難しいかを物語っています。多くの期待を寄せられている中で思い切った(ように見える)挑戦をすると、それだけ多くの人を失望させてしまうかもしれません。しかし、今後どのようなコミュニケーションを行い、ブランドストーリーを紡いでいくのかによって、これまで以上のファンを獲得するだけでなく、混沌とするEV業界の中で牽引する存在になれる可能性があるのも事実です。

まとめ

旧来の「自動車はこうあるべき」という殻を打ち砕いたJAGUARの挑戦に、反発があるのはある意味当然のこと。担当者のコメントからもJAGUAR側も想定内の反響であったようです。どの顧客とニーズを見て、何を残し、新たに何を手にしようとしているのか。このリブランディングが正解だったかどうか分かるのは、しばらく先の事になりそうです。もし、その独自性と芸術性が大衆に受け入れられたならば、テスラなどの他のEVメーカーを超えるブランドになっているかもしれません。

 


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■笠原 章吾(かさはら しょうご)執筆
クリエイティブディレクター・コピーライター

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