では、アサヒスーパードライのフルリニューアルに伴う、ブランド戦略をフレームワークで表してみましょう。今回用いるフレームワークは、コトラーの4つのブランド戦略です。
フレームワークについて解説していきます。
コトラーは読者の皆様もご存じのマーケティングの大家ですが、ブランド戦略を検討するフレームワークとして、「4つのブランド戦略」を提唱しています。
方法としては、
- ① 製品カテゴリーとブランド名の観点に分けます。
- ② 既存と新規の領域に分ける。
- ③ ①と②を組み合わせる。
その結果、4つの戦略に分類ができるということです。
分類できる4つの戦略は、下記の通りです。
- A.ライン拡張
- B.ブランド拡張
- C.マルチブランド
- D.新ブランド
この分類に対して、企業の経営資源を考慮し、最適なブランド戦略を選択することが重要になります。
続いて、それぞれの戦略について解説します。
A.ライン拡張
現時点でブランド力を獲得している商品・サービス等の知名度を利用して、既存のアイテムを拡大した新商品を導入する戦略です。
既存のブランド名を用いながら、パッケージや味・香りなどのフレーバーを変えて新商品として市場に投入する場合が、この事例に該当するでしょう。
メリット
- 一定の知名度や信頼性と固定客を持つ既存ブランドを用いることで、低リスク・低コストで市場に投入できる。
- 既存の商品・サービスで取りこぼしていた消費者ニーズを幅広く取り込むことができる。
- 商品開発が比較的行いやすい。
デメリット
- 既存ブランドの拡大をやりすぎるとブランド力が希薄化してしまい、結果としてコアなブランド力が落ちてしまう可能性がある。
B.ブランド拡張
現時点でブランド力を獲得している商品・サービス等の知名度を利用して、現況とは異なるカテゴリーに新規参入することです。
ブランド拡張戦略のメリット・デメリットは以下のようなものがあります。
メリット
- 他のカテゴリーで知名度や信頼性と固定客を持つ既存ブランドを用いることで、新カテゴリーにおいても市場に参入しやすくなる。
- 他のカテゴリーでブランド力があるため、消費者への浸透が図りやすい。
デメリット
- 新カテゴリーでの参入に失敗した場合、既存カテゴリーでのブランド力も落ちてしまう可能性がある。
C.マルチブランド
現時点でブランド力を獲得している商品・サービス等と同じカテゴリーに、新しい商品・サービス等の別ブランドを展開させる戦略です。
メリット
- 多様な顧客の意見を反映できる。
- 顧客接点を増やせる。
- 顧客の囲い込みがしやすい。
デメリット
- 経営資源が分散されることで個別ブランドとしては投資不足になる可能性がある。
- 同一カテゴリー内にて自社ブランド同士で売上や粗利が食い合いとなり、個別ブランドとしては収益不足になる場合がある。
D.新ブランド
既存のブランドが使えない場合や、既存ブランドを新しいカテゴリーで用いることに問題がある場合に行う戦略です。
メリット
- ブランドの立ち上げに成功すれば、収益を大きく増加させることができる。
デメリット
- 新ブランドへの投資対効果が上がるまでは時間や費用がかかり、結果的に既存ブランドへの投資が不足してしまう場合がある。
では、これらを基に今回のスーパードライをコトラーの4つのブランド戦略フレームワークで表してみます。その結果は、下記の通りです。
既存のブランドであるアサヒスーパードライを、既存のカテゴリーであるビール市場へ投入するということで、ライン拡張戦略に該当することになります。
固定客がいるため販促費用を抑えることも可能ではありますが、今回は前述の記事の通りにアサヒビール社史上最大規模の広告費用を投下する予定のようです。
既存の商品でも強力なブランド力を持つアサヒスーパードライは、今回のフルリニューアルにおいても相当な注目を集めることになるでしょう。
これまでアサヒスーパードライに関心を持たなかった顧客からも、一定の興味を引くことが可能でしょう。
そうなると、市場シェアが更に拡大できる可能性も出てきます。
ただ、一抹の不安を覚えるところがあるのも確かです。
そこについては、後編にて述べていきたいと思います。
■武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師
経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/