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Case Study

社名を連呼するCMをゴールデンタイムに大量投入する老舗BtoB企業の狙いとは

投稿日:2023年2月4日 更新日:



「無いぞ、知名度。SCSK あるぞ、IT の可能性。SCSK」

人気俳優の今田美桜を起用しゴールデンタイムに大量投入。典型的なマスマーケティングのSCSKのCMは、ないぞ、ないぞ、と繰り返すナレーションに自虐ネタ?と思いつつも、確かに存じ上げない「ITの可能性、SCSK」。
いったいSCSKとはなんの会社なのでしょうか。

SCSKはどんな会社? なるほどSCSK

コンサルティングから、システム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPOまで、ビジネスに必要なすべてのITサービスを、SCSKがフルラインアップでご提供します。 複数の事業部門が横断的に連携し、お客様に最適な製品・サービスを複合的にご提案・ご提供します。
https://www.scsk.jp/pr/cm/



出典:今田美桜さんがSCSK知名度アップのCMに出演!マニッシュなスーツ姿でクールにウォーキング!クセになる秘密の言葉を歌うように口ずさむ!

どうやらバリバリのBtoB企業のようです。しかしながら筆者、そこまでデジタルにアレルギーはない方だと思ってはいるのですが、この説明文を読んでも今ひとつSCSKのビジネスが具体的には理解できませんでした。
果たして今田美桜のCMからどのぐらいの方が「SCSK、ITの可能性」と聞いて、ビジネスの内容がなんとなくイメージできたり、「ああ、あの会社ね」と思えるのでしょうか。
前もって断っておきたいのですが、筆者は決してマスマーケティングを否定しているわけではありません。ただSNSによって個人の発信がマス広告と同じぐらいの影響力を持つようになった今、ともすると押し付けのように感じられるマス広告に対する嫌悪感、莫大な費用、効果測定の難しさ、などなど、積極的に選ばれない手法になってきているのではないか、と感じる部分があります。
とはいえTVCMや新聞広告を主とするマス広告は決して廃れたのではなく、企業の戦略や目的の上で、その他の媒体を組み合わせて行えば、非常に高い効果が見込めるメディアであることは確かです。
その証拠としてYOUTUBEやAmazonプライムやNetflixといった動画のコンテンツが溢れていても、テレビはなくなっていません。テレビを見ている人たちは必ずいるのです。

さて、どうしてSCSKは有名俳優を起用し、社名を連呼する知名度向上に目的を絞った戦略を展開する必要があったのでしょうか。



出典:フルラインアップのITサービスで、あらゆるお客さまのニーズに応える-SCSK-

今田美桜の「無いぞ」「あるぞ」で知名度向上へ、SCSK初のテレビCM

制作の背景には、2020年に定めた「グランドデザイン2030」がある。「『2030年に“共創ITカンパニー”の実現と売上高1兆円を目指す』と宣言したものです。この目標達成には、企業ブランド価値の向上が不可欠。CMを通してアプローチしたかったのは新規の取引先となるような企業の経営者層やビジネスパーソンです。社内のエンゲージメントを高め、組織変革、ビジネス変革を加速させたいという想いもありました」
2022年8月号 ブレーン 心に残ったプレゼン術


SCSKは「共創ITカンパニー」への実現に向け、
①SCSKグループとしての共創
②お客様との共創
③社会との共創

と徐々に自社から社会へと範囲を広げ、その成長ドライバーとして人財投資を位置付けています。

SCSK、30年度に売上高1兆円の経営目標を策定

ではこの目標を達成するために不可欠としている企業ブランドの価値とは何でしょうか。世界最大のブランディングファームInterbrand社の「Best Japan Brands」ではその評価対象基準を下記に定めています。

・日本発のブランドであること:日本の企業によって生み出されたコーポレートおよび事業ブランドであること
・各種財務情報が公表されていること、または監査済みの財務情報が入手可能なこと
・日本で一般に認知されていること

CRITERIA FOR CONSIDERATION / 評価対象基準

ブランド価値の評価基準の一つとして「認知」が含まれています。ただし、認知、知名度が高いことイコールブランド価値ではありません。どんなに認知が高くても、それが企業の売上につながるとは限らないからです。
BtoB企業が一般の認知を上げる意図としては、
①「人材採用力の向上」
②「従業員のエンゲージメント向上」
③「間接的な買い手への影響力の向上」
があげられます。SCSKは“共創ITカンパニー”の実現に、「一人ひとりが自律的に成長するプロフェッショナル集団」となることを実現の原動力と定めています。①②に共通するのは人財です。ここにSCSKが認知の獲得に特化したCMを打ち出した理由が見えてきます。



老舗BtoB企業の描く未来

SCSKは、ビジネスに必要なすべてのITサービスをフルラインアップで提供し、お客様のビジネス価値向上に貢献する企業としての実績を誇ります。
 一方で、まだまだ知名度が高いとは言えない状況にあります。そこで、その“知名度のなさ”を逆手にとって、まずはSCSKならびにITの可能性を知っていただくことを意識した、インパクトのあるCMを、今田美桜さんを起用し制作しました。
プレスリリース・ニュースリリース配信サービスのPR TIMES

SCSKに限らず、著名な俳優や人気のある芸人を起用し耳に残りやすいフレーズと共に社名を連呼するCMを大手のBtoB企業がこぞって打ち出しています。

『AではじまりCでおわる素材の会社はAGC』
『すべてを突破する。TOPPA!!!TOPPAN』
『どこ見てる?100年先だよ。サス鉄ナブル! JFE』

AGC、凸版印刷、JFE共に明治の創業、SCSKは住友商事から独立したシステム部門です。創業100年を超える老舗企業だからこそ、時代の変化を機敏に感じとり新たなビジョンを立ち上げ、その目標を達成するための戦略を着実に実行していく。
VUCAの言葉の通り、アフターデジタル、アフターコロナと、目まぐるしいスピードを持って予測不可能かつ曖昧、複雑な環境へと私たちの環境は激変しています。つまりたとえ老舗企業であっても、自分たちの企業ドメインを常に見つめ直していく必要性に迫られているのです。
さらにアフターデジタルにおいては、事業ドメインの境界が非常に曖昧になったともいえます。自社のプロダクトやサービスを提供するだけではなく、顧客が実現したい「コト」をトータル的に設計していくUXの観点が求められています。
BtoB企業とはいえ、自分たちの業界の限られた範囲だけでは、そのような時代の変化に対応できません。

SCSKの知名度が高くないという状況は、あくまでも自社の業界外では、ということではないでしょうか。かつて印象的なフレーズのCMは子供達が口ずさんだり、一種の社会現象ともなり得ました。しかし現代は日々新しい情報が溢れ、人は自分の興味のないものに対してはどんどん忘れていきます。
SCSKはCMの受け皿としてCMの裏側を紹介する動画をはじめ、SCSKの事業を身近な例として取り上げたコンテンツを盛り込んだ特設WEBサイトを作り、採用サイトへの入り口を設けています。CM特設ページ

凸版印刷はスクロールエフェクトが楽しいブランドサイトに加え、ブランディングムービー、高級食パン専門店の嵜本とコラボした凸パンにフードロスをかけわせてと、次々と話題を作り出しています。TOPPA!!!TOPPAN – 凸版印刷

JFEももちろんブランドサイトを設け、CFに出演しているお笑い芸人がサス鉄ナブル!を紹介しています。そしてサイトの最後にはリクルートの入り口バナーがあるのはSCSKと同じです。ブランド特設サイト – JFE

冒頭でマス広告は効果測定が難しく、費用対効果が測りにくい傾向にあると記しましたが、ブランドサイトを設け、そのサイトへのアクセス数を測ることで、ある程度は可能になっています。また自社の公式SNS、YOUTUBEの動画はマス広告の受け皿となりつつ、反応や再生数で効果を測る機能を果たしています。
とはいえ、この情報過多の時代において一過性のものとして終わらせないために、SCSKを初め名だたる各老舗企業は引き続きどのような戦略をうってくるのでしょうか。
そしてどのように企業ブランド価値が高まってゆくのか。
これからも注目していきたいと思います。


【参考サイト】
https://www.scsk.jp/pr/cm/
時代遅れになりつつある「ブランディング」を再設定する(UX戦略の教科書)




CBOメディア&ラボ【ブランディング推進のための情報メディア】

【経営×ブランディングの責任者(CBO)を日本で増やす】経営に貢献する真のブランディングを広めるために、ブランドづくりの基礎知識・ポイントからさまざまな事例、そして実践的に学べるセミナー、相談会まで。幅広いメニューで社会にCBOを増やしていきます。
※一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会公認
最新情報を発信しています。






■三重野 優理(みえのゆり)執筆
グラフィックデザイナー・コミュニケーションデザイナー
グラフィックデザインをベースとしたコミュニケーションデザインに従事。
制作会社にてグラフィックデザイナーのキャリアをスタート。百貨店を中心にさまざまなクライアントワークにて紙、Web、動画など様々な媒体のディレクション、製作に携わる。
現在はグローバル家具ブランドの戦略企画室にてブランディングを首軸に、自社Webサイトの運用、既存顧客へのコミュニケーション戦略を担当。
2022年グロービス経営大学院卒(MBA)/学士(芸術)

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