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Case Study

不正のトライアングル理論から見るビッグモーター騒動

投稿日:2023年11月20日 更新日:



メディアを騒がせ続けた、ビッグモーター騒動とは

今からおよそ50年前、山口県で創業した中古車販売会社・ビッグモーター。「売買」・「車検」・「整備」・「修理」をワンストップで請け負い、わずか一代で従業員数が6,000人(2021年2月時点)の全国展開企業へ成長しました。

大型店舗を郊外に設置しているケースが多く、車に関することはすべて1つの店舗で完結するワンストップショッピング型であることが強みです。各店舗では中古車・新車の売買のほかに車検や一般整備、損害保険代理店としてトータルサポートを担っていました。
https://www.bigmotor.co.jp/

一代で事業を急速に拡大させた裏で行われていたのは、自動車の修理を行う「板金・塗装」部門での保険金の不正請求でした。損害保険会社は、事故に遭った契約者に車の修理工場としてビッグモーターを紹介。ビッグモーターは、その車を故意に傷つけたり不必要な部品交換をしたりするなどして、修理費用を水増しし、保険金を不正に請求していました。
さらに、いくつかの店舗では、除草剤を散布するなどして街の街路樹や植え込みを意図的に枯らすという、にわかには信じられない悪事を働いていたと言います。

そもそもは、週刊誌の記事を受け、X(旧Twitter)で批判が殺到。そこからビッグモーターをめぐる報道は過熱し、当初の保険金不正請求から、オーナー経営者による企業体質、ガバナンスの問題や除草剤散布による街路樹の損害にまで広がり、最終的に33の修理工場で300以上の不正があったことがあらためてわかりました。

詳しくは、同社が2023年7月18日に公表した外部弁護士による「調査報告書(作成日付は2023年6月26日)」に記載があります。
https://www.bigmotor.co.jp/pdf/research-report.pdf

北は札幌から南は鹿児島まですべての修理工場でこの「疑義案件」が発見されており、現場へのヒアリングを通じて、多くの従業員に不正行為という認識がありながら「不正な作業に関与したり、見聞きしたりした」という調査結果が出ています。

今回の騒動を不正のトライアングルに当てはめてみると

不正のトライアングル理論とは


「不正のトライアングル」とは、経済犯罪学の中で広く受け入れられている理論で、個人が不正行為を犯すための三つの要素「機会」「動機」「正当化」があり、これらが揃った場合に不正行為が起きやすいとされています。

不正を行うことができる『機会』
不正ができてしまう環境・制度があることを指す。組織の管理体制やセキュリティ体制の甘さや個人の特殊なスキル、あるいは役職による特権などにより生まれます。

不正を行うための『動機・プレッシャー』
やむなく不正をしなければならない理由があることを指す。例えば、経済的に困窮していてすぐに現金が必要であるとか、過酷な労働環境に晒されて高ストレスの状態に置かれている状況などが挙げられます。

本人が不正を『正当化』できる
不正を行う本人が自ら納得するための理由があることを指す。『頑張っている自分を適切に評価しない会社が悪い』『周りのみんなもやっている』などと考えることが挙げられます。

まず、不正や不正に至った経緯を振り返ってみたいと思います。
同社では経営陣から、車両修理1件あたりの代金、車両パーツの粗利益の平均額を上げるようにノルマが課せられていたと報道されています。平均値が低い工場では、会議の場で問い詰められたり、降格させられたりするなど、厳しい処分が下されていたようです。そうした中、保険金の不正請求行為も、ノルマ達成のための慣行として横行していたようです。

では、今回の事案を不正のトライアングル理論に当てはめてみてみたいと思います。
【機会】
・保険会社がチェックしない(査定がラク)。
・写真で見積もりが完了する。
・工場内の閉鎖的な空間で行われる。
・融通が利く保険会社とのコネもある。

【動機・プレッシャー】
・売上を出さないと降格させられる。
・数字を上げるほどに昇給、昇格する。
・ノルマを達成できないと罵倒される。
・自腹や罰金したくない(家族に説明も)。
・みんな、昔から不正をやっていた。

【正当化】
・家族や生活を守らないといけない(上がった生活水準を維持)。
・会社は、数字を出す者を評価する。
・保険会社側からの依頼もあった。

このように不正が発生しやすい条件が揃っている中で、なぜ社員の方が不正に対してこんなことをするのをやめようだとか、そもそも退職を選ばないのかというと、そこには「お金」が関連しているかと思います。

・年収2500万円 長く稼げます。
・高卒4年目、年収1050万円。
・平均年収1109万円。

など、高い給料を全面にアピールした求人広告などで人を集めていました。こういった求人広告を見て入社した人たちであり、働く人たちの多くがお金に対する憧れが強いという価値観を持っているのではないかということが考えられます。

このようにお金に対する執着や憧れが強いと、普通だったら倫理的に立ち止まるところを、お金のためであれば・・・という風に流されてしまう人が多かったのではないかと思います。もちろん、利益や給料を追求すること自体はOKですが、同等以上の倫理観を持ち合わせることが大事です。そこで、高給を持続するためには、それに見合う利益を出さないといけないので、会社として個人としての実力や努力が必要になります。

しかし、日本一へ急拡大していく中で、経営陣の能力はそれに見合っていたのか?お金だけでなく倫理観を持ち合わせた実力者を採用できていたのか?そして、規模が大きくなる中でもガバナンスはきかせ続けていたのか?それが難しくて、求める利益が確保できなくなってきたとき、給与を下げることができたのかというのが問われます。当然、利益を出し続けるためには、人を確保し続けないといけないので、給与をアピールして人を採用してきた中で、給与を下げることが難しかったのではないかと考えられます。

今回は、業界の最大手であり、業界や社会に対する影響が強い大手企業でしたので、そのポジションに見合った責任感・倫理観が大切になります。

大手企業の不正が社会に及ぼす影響と不正を無くしてくためには

大手企業が不正を犯すということは、自社や顧客だけでなく、業界や社会に影響を与えます。
例えば、不正が発生すると、不信感が増し、コンプライアンスの意識が高まります。
結果的に、これまで真面目にやっていた企業も余計なコストが必要になり、経営を圧迫する原因にも。さらに、市場の信頼を損ない、雇用機会が減少することも考えられます。

だからこそ、「機会」「動機」「正当化」をいかに減らしていけるのか。その意識が重要になります。信頼やブランド構築などは長期間かけて企業努力でつくられるものです。
しかし、不正があることでこれまで築き上げてきたものが一発で崩れてしまう。そうならないためにも、不正が起きない組織づくり・ブランドづくりが大切になってきます。

まず「機会を減らす」ためには、内部統制の強化とセキュリティの強化が非常に重要です。
定期的な内部監査、財務報告の透明性の向上、二重チェックシステム、職務の分離などが含まれます。さらに、物理的なセキュリティやデジタルセキュリティを強化することも重要で、これには、パスワードポリシーやセキュリティシステム、データアクセス制御などが含まれます。

次に「動機を減らす」ためには、働きがいのある職場環境づくりと適切な目的設定が重要です。
適切な給与、福利厚生、ワークライフバランスの尊重など、従業員がストレスや経済的な圧力を感じることなく働ける環境をつくることが必要です。さらに、過度なプレッシャーを与えるような不適切な目標設定を避けるべきで、達成可能で公正な目標を設定し、適切な評価システムを用いることも大切になってきます。

最後に「正当化を減らす」ためには、倫理教育と開放的なコミュニケーションが重要になってきます。
社員に対する倫理教育や不正行為の結果についての教育は、正当化を防ぐ助けとなるだけでなく、自社の価値観やポリシー、法律を理解し、それらを尊重する文化をつくることにつながります。加えて、ホットラインの設置やオープンドアポリシーの推進など、社員が不安や問題をオープンに話せる環境をつくることも求められています。

SOMPOホールディングス最高財務責任者も会見で「ブランドの毀損など事業への影響は我々も肌で感じております。」と語っており、いかに不正を出さない組織をづくりがブランディングにつながっていくのかを示しています。

大切なのは不正が起きてしまった後の行動です。不正行為の露見は、企業統治構造の改善や規制の強化、教育の改善など、社会全体の改善を促す契機ともなり得ます。
ブランディングを学ぶということは、自社の商品を知ってもらう、できるだけ高く売っていけるようにしたいという目的が多いです。しかし、最近ではコンプライアンスやガバナンスの部署の人など、会社としてのマイナスをいかに減らしていくのかを考えるために、ブランディングを学ぶ人が多くなっている印象です。
心がけることは「悪いことは、見られている。しかし、良いことを、見てくれてもいる。」という意識を持つこと。まだまだ世界に比べて日本人は、日本企業は社会的な意識が低いと言われているからこそ、目立つチャンスがあります。

ビッグモーターに関しても、保険代理店登録の取り消しや伊藤忠商事の買収(創業家の関与なしが条件)など、組織や経営戦略を大きく変えていくことになっていくと思います。これからの動きにも注目していきたいです。




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※一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会公認
最新情報を発信しています。






■古澤 敦貴(ふるさわあつき)執筆
クリエイティブディレクター・コピーライター
言葉をベースとしたブランディング、コミュニケーションデザインに従事。
制作会社にてコピーライターのキャリアをスタート。広告を中心にさまざまなクライアントワークに携わる。キャリアを重ね、紙、Web、動画など様々な媒体のディレクション、制作を行う。

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