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Case Study

M&Aによるブランドシナジーを考察 ーカインズによる東急ハンズのM&A【後編】

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東急ハンズ社のように、都市部に出店しており 、なおかつ競合企業が多い場合は、できる限り各地域のブランド店舗として魅力を高め、顧客から選択され続けるためにも常時販促活動を強化する必要があります。

そのため、今回の感染症問題のような外部環境に事象が発生した場合、休業や閉店になる店舗が増えてしまうと、売上高に対する影響度合いは非常に大きくなります。

カインズ社のようにエリアドミナント戦略を展開している企業は、もしも1店舗が閉店しても、他の店舗で一定程度を補うことができるため、外部環境に対する影響を和らげることもできます。ただし、災害などの急激な外部環境の変化があった場合には、特定地域に経営資源を集中しているため、一気に業績が悪化する場合もあります。

エリアドミナント戦略における主なメリット・デメリットは、下記の通りです。

このように、東急ハンズ社とカインズ社は店舗戦略自体がまるで異なる企業であり、補完性はあるものの統合するには難しい企業同士でもあるのが実態です。

また、東急ハンズ社は地方・郊外でも一定程度の知名度があり、ブランド力も高いものを有していますが、カインズ社は地方・郊外での知名度は高いものの、都市部での知名度やブランド認知力はそこまであるわけではない状況です。

そのため、「東急ハンズ」という店舗名自体がブランドである状態の現況で、店舗名を変更することになった場合、カインズ社がM&Aにおいて獲得しておきたかった、都心部でのブランド認知力も減損してしまう可能性が高くなります。

ただし、東急ハンズ社は今回のM&Aによって東急グループを外れてしまうので、将来的には「東急」という名称は使えなくなる可能性があります。

このことに備え、カインズ社は東急ハンズ社に対するリブランド戦略を改めて練り直していかなくてはなりません。

参考事例としては、かつて東芝グループだった東芝メモリ社は、東芝社の経営都合によって東芝グループを離れることになり、その結果「キオクシア」という企業名称に変更し、独立後に再出発を果たしています。

キオクシア株式会社 ホームページ
https://brand.kioxia.com/ja-jp/

キオクシア社はロゴも含めてグループ体制も一新し、東芝グループのイメージを刷新させ、大量のテレビCMを流すなど、ブランド力を獲得すべく積極的に動いています。

今回の東急ハンズ社についても、おそらくM&A後には同様の動きをしていかなくてはならないものと思われます。

ここで考えられる一例として、カインズ社の親会社である、ベイシアグループによるコラボレーションや共同出店などが推測できます。

ベイシアグループは群馬県を拠点とした一大流通グループであり、2020年度決算にてグループ企業の売上高は1兆円を超える規模に達しています。

そのグループの中には、スーパーマーケットを展開するベイシア、そして近年では「ワークマン女子」ブームを作り出したワークマンも存在しています。

ベイシアグループについて、簡単に組織構成図をまとめると下記のようになります。

ベイシアグループの企業において特徴的なのは、企画開発能力が優れているところです。

ワークマン社の機能性アパレルは、ここ数年で大ヒットとなりましたし、カインズ社のPB(プライベートブランド)商品も、ホームセンター業界内では非常に高く評価されています。スーパーマーケットがメインであるベイシア社も当然、PBを複数取り揃えています。

これに対して、東急ハンズ社の特徴はバイヤーによる商品選定力です。いわば、生活雑貨のセレクトショップのような棚割り・お店作りが、東急ハンズ社の店舗の特徴であり、強みでもあります。

双方の強みを併せ持つと、ベイシアグループの企画開発力と東急ハンズ社の商品選定・仕入れ力を併合させて活かし、競合企業とは相当に差別化した店舗作りができると見込まれます。

だからこそ、今後は相互の強みを上手く融合させつつ、それぞれのブランドの持つ良さを活かしていくことが大切です。

したがって、顧客のブランド・イメージとの齟齬が大きくならないように、上手に調整を図りながらリブランディングを検討していくことが成功のカギとなるのではないでしょうか。

ここから着想できることとしては、東急ハンズ社のブランドが「東急ハンズ」から「ハンズ」に切り替わる際に、リブランディングを図ることが肝要であり、そのタイミングを失わないことではないでしょうか。

かつてソニー社が展開していた「ソニープラザ」は、ソニー社から独立して「プラザ」ブランドになりましたが、その後にJフロントリテイリング社に傘下入りし、その後もプラザブランドで経営が継続しています。

プラザ ホームページ
https://www.plazastyle.com/

顧客の認識するブランドと違和感のないかたちで、徐々に社会にリブランディングを浸透させていくことが、東急ハンズ社とカインズ社のこれから最も重要な仕事となることでしょう。そのためには、ベイシアグループ全体による協力を得ることが重要となります。

M&A後にブランド力を喪失し、最終的にブランドごと消滅してしまった事例は、過去に複数の企業において枚挙にいとまがないところです。

多くの人に愛されてきた「東急ハンズ」のブランド・イメージを残しつつ、ベイシアグループの企業価値向上が同時に達成することができたとき、今回のM&Aが成功事例であったと多くの人の記憶に刻まれることになるでしょう。

 

 

 

 


■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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