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Branding Method

「コト消費」から「品定め」「ブランド定め」の時代へ~コロナショックで大転換する購買行動~

投稿日:2020年6月22日 更新日:

新型コロナの時代においては、今までのセオリーの多くは通用しません。例えば「モノ消費からコト消費へ」、「ネット通販がリアル店舗にとって代わる」といった今まで常識とさえされていた考え方もゼロ・リセットで考える必要があります。

 

消費者はより合理的に

つい最近まで「モノ消費からコト消費へ」などと言われてきた消費者トレンド。ところが今回のコロナ禍で、「コト消費」が急失速しました。外出自粛でライブ・コンサート、旅行、アミューズメントパークなどは軒並み大打撃を受けています。「アフターコロナ」が来ればまた活気を取り戻すかもしれませんが、「ウィズコロナ」時代には、無観客のプロ野球をテレビ観戦したり、eスポーツでストレス発散したり、ソーシャルディスタンスを保ちながら公園でくつろいだりする時間が増えるものの、コト消費はいったん下火になるでしょう。

では、「モノ消費」は復活するのでしょうか。いいえ、大不況の到来も囁かれる中で、モノの消費も冷え込むことは確実です。
もちろん、モノを消費しないことはありえません。しかし使うお金が限られると、消費者は勢いや雰囲気で購買をしたりはせず、「無駄使いはしたくない」「確実によいものを買いたい」と考え、より合理的な購買判断をするようになります。

 

機能的便益への回帰?

ブランド論の大家デービッド・アーカーは「機能的便益を超えて」という論文で、ブランドの情緒的便益の重要性を説きました。
簡単にいうと情緒的便益とは、「このブランドを買うとき、または使うとき、私は〇〇〇を感じる」と思わせる便益のことです。ポルシェを運転するときに興奮を感じ、リプトンの紅茶を飲むときに落ち着きを感じ、リーバイスを身に着けたときにタフになった気分になる…など。
そしてアーカーは顧客を「合理的な個人」とする見方はたいてい間違えているとして、機能的便益よりも情緒的便益を重視しています。トラックを買うときも、耐久性や安全機能よりも、「かっこいいデザイン」「運転が楽しい」「パワフルな感じがする」といった漠然とした属性が顧客の購買決定を左右している可能性が高いと指摘しています。

しかし今回のコロナ禍では、顧客は合理的な判断をし、ブランドの情緒的便益よりも機能的便益をより重視するかもしれません。
例えばこの夏は、「涼しそう」なデザインよりも実際に「涼しい」素材を使った服、「かっこいい」デザインの服よりも見た目は質素でもゆったりと着られる服、流行や季節感が反映されたデザインの服よりも、シーズンレスにより長く着られる服、などが支持されるでしょう。
アパレルから書籍に話が飛んでしまいますが、キャッチ―なタイトルで話題性を追いかけただけの書籍はもう売れなくなります。読者はタイトルに騙されて、とりあえずAmazonで「ポチっと」ボタンを押して気軽に本を購入することも少なくなるかもしれません。

 

リアル店舗の意義高まる

大胆な予測をすると、これからアパレルや書籍においては、むしろAmazonや楽天市場、ZOZOTOWNなどのネットモールからリアル店舗に揺り戻しがくる可能性さえあります。
今まで玉石混交のブランドが乱立していたアパレル業界や出版業界。しかしこれからは、消費者により「玉」が見定められ、「石」は見捨てられ、淘汰されるでしょう。その「品定め」の場として、リアル店舗が見直されてきます。
出版・書店業界はすでに淘汰が進んでいますが、アパレル業界はバブルの全盛期から30年が経ち、市場は約15兆円から9兆円に減少しているというのに、新規ブランドは乱立、オーバーストアは改善されず、過剰在庫と廃棄ロスに苦しんでいます。その業界構造が、コロナショックを機に是正されてくると思います。リアル店舗の数自体は、減少していくでしょう。また、百貨店という百貨店にやみくもに出店することは少なくなるでしょう。

しかしリアル店舗の意義は、むしろ高まると思います。前述したように、アイテムの素材や着心地を確かめたり、コーディネートを実際に試したりするといった「品定め」は、リアル店舗でしかできません。
書籍にしても同じです。ネット通販では基本的にタイトルと概要だけで内容は分かりませんが(もちろん冒頭部分の試し読みはできますが)、書籍の装丁から内容までを確かめるには、リアル書店が最適です。
これからは便利さゆえに安易に「ポチる」ネットの購買スタイルは後退するかもしれません。使えるお金、買えるモノを減らさざるを得ない消費者は、モノを厳選するために、リアル店舗に足を運ぶでしょう。

また、リアル店舗が今後「ライブコマース」のライブスタジオの役割を果たすことも考えられます。「ライブコマース」とは、消費者がネット上でライブ動画を見ながら商品を購入できる購買スタイルで、すでに中国では店員やインフルエンサーがショップで商品を紹介し、アプリやサイト上でそのライブを観た消費者がそのまま購入するというスタイルが普及してきています。日本でもリアル店舗をライブスタジオに見立てて、商品紹介をライブで行い、動画を自社のECサイトで流す、といったことが当たり前になるかもしれません。

 

D2Cが優勢に

ではアパレルや書籍のネット通販は廃れるのでしょうか。そうではありません。ネットモールの代わりに、自社サイトでのECが優勢になるでしょう。いわゆるD2C(Direct to Consumer)で、AmazonやZOZOTOWNなどの中間業者に頼らずに、自社サイト(や直営店)で直接消費者にブランドの世界観を伝え、コミュニケーションを図り、販売していくのです。
自社サイトによる販売にはメリットはたくさんあります。顧客情報を得やすい、ブランドの世界観を伝えやすい、中間マージンが必要ない―などです。
リアル店舗に比べて、欠品の可能性が少ないのも便利です。リアル店舗は「品定め」の場と割り切って、自社サイトで購入してもらうという「オフライン・トゥ・オンライン」も有効な手段です。

 

「品定め」ならぬ「ブランド定め」

新型コロナの時代にブランディングを考えている余裕はないという声もよく聞かれます。確かにもともと1,000円の商品にブランディングという「魔法の粉」をかけて1万円で売るビジネスモデルは、この「品定め」の時代には通用しなくなるでしょう。しかし良い商品をコツコツと作り続けていくブランドは、目の肥えた消費者ならば必ず選んでくれます。今こそ消費者とのエンゲージメントを強めて、「品定め」ならぬ「ブランド定め」をしてもらう必要があります。

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

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