今回は、2019年のヒット商品となったタピオカブームについて、PEST分析を用いてどの様な背景があるか解説していきます。
PEST分析は、外部環境の分析に適したマーケティング分析の手法です。主に、マクロ環境などの外的状況の分析を行うことに長けています。
ただ、実際に使用する際にはPEST分析単独で分析に用いるよりも、3C分析や4Pなどの他のフレームワークと組み合わせて使い、補完的役割を担うために用いるのに便利なフレームワークといえます。
タピオカドリンクは、イモ類であるキャッサバなどのデンプンを丸くて大きい粒状に加工して、甘めのミルクティーなどの中に複数入れた、デザート飲料です。主に黒糖味のタピオカが使用されていることが多いです。
タピオカミルクティーを販売する代表的なチェーン店としては、台湾発祥の「Gong cha(ゴンチャ)」が有名です。2006年に創業し、世界で約1400店舗を展開するティーカフェチェーン店です。日本には、2015年に進出しています。
https://www.gongcha.co.jp/
そのタピオカについて、2019年にヒット商品となった要因を、今回はPEST分析を用いて検討していきたいと思います。
PEST分析では、下記項目について該当する内容を取りまとめしていきます。
- Political:政治的環境要因
- Economic:経済的環境要因
- Social:社会的環境要因
- Technological:技術的環境要因
これらの英語の頭文字をとって、PEST分析と呼ばれています。
実際には、社会状況や企業の外部環境(対象企業に対する社会的影響要因)を踏まえて、複数の項目を抽出していくのですが、今回は理解しやすくするために、あえて非常に簡素なかたちでPEST分析を行っていきます。
図にまとめていくと、下記のようなかたちとなります。
では、各項目について解説していきます。
Political:政治的環境要因
今回のタピオカブームは、台湾の人気定番商品であるタピオカミルクティーを、日本に輸入するかたちで始まっています。
そもそも台湾と日本は友好関係にあり、これまでにも地震などでの災害発生時に強固な協力関係が話題となりました。2011年の東日本大震災の際にも、台湾は日本へ迅速に救援を申し出てくれ、なおかつ世界で最も多くの義援金(約250億円)を日本に寄付してくれたことについては、とても有名な話です。
そのような経緯もあり、日本と台湾では相互の文化に対して非常に敬意をもって接するところがあります。そのため、今回のタピオカミルクティーについても、台湾発祥の人気商品という点について、日本としても非常に好意的に受け止められる傾向があります。
いわば、「台湾」という日本にとって親しみや好感のもてるブランドが、日本での商品普及に好影響を与えているというところです。
Economic:経済的環境要因
日本は、長らく続いたデフレ経済に対し、近年ではプチ贅沢ともいえるプレミアム商品がヒットする傾向が高まっています。その具体例としては、プレミアムモルツのヒットが挙げられます。
プレミアムモルツは、ビールとして日常的に消費するには高く感じるものの、ちょっとした贅沢に利用するには抵抗感の薄い価格であり、なおかつちょっとした高級感や非日常感を味わえる、プチ贅沢商品です。
このように、現在の日本は日常生活において、平時は節約し、ときおり日用品や嗜好品でちょっとした贅沢を志向する消費性向に変化しつつあります。
タピオカミルクティーも、通常のカフェ飲料としてはやや高めですが、ちょっとした贅沢感や満足感を味わるものであり、なおかつ手が出せない金額ではないものが大半です。
Social:社会的環境要因
スターバックスが日本の飲食市場に参入して以来、日本にもすっかりカフェで一息いれる習慣が定着しました。また、コンビニエンスストアなどで手軽にカフェ飲料がテイクアウトで購入できるようになったことで、街中でのカフェ類の消費が定着したという、近年での文化的な変遷も関係しています。そういった点で、タピオカミルクティーを購入して、街中で消費することに対しても、当然、違和感は無くなっています。
また、世界的なお茶ブームということもあり、企業としても様々な種類のお茶の入手や商品開発が可能となっています。実際に、タピオカミルクティーについても、従来と異なり、ほうじ茶や抹茶にタピオカが入っているタイプなど、タピオカを入れる飲料自体の種類も増えてきています。
Technological :技術的環境要因
前述の世界的なお茶ブームの影響もあり、生産者や流通業者におけるお茶の品種改良や保存・輸送技術も高度化し、以前よりも、美味しいお茶が安価で手軽に飲めるようになってきています。また、お茶の種類自体も多様化してきており、かつては量産が難しかったお茶についても、技術革新のおかげで消費者の手に入りやすくなってきています。
また、SNSが社会に普及したことで、「インスタ映え」など、自身の異文化体験や面白いと感じたことについて、仲間内で共有する意識が高まっています。タピオカミルクティーについても、ミルクティーとタピオカの組み合わせによる独特な見栄えが、「SNS映えする」ということで、ブームの当初に話題となりました。現在では七色のタピオカなど、様々な種類が販売されてきています。
非常に簡単にまとめましたが、このようにPEST分析を用いることで、タピオカがブームになった理由は、様々な社会的事象が重なったことによるものであり、簡単な一元論で説明ができるような理由で発生したものではないということが、明らかになりました。
このように、PEST分析は社会的事象を分析していくことに役立つツールであるため、是非とも上手に活用して、マクロ的環境とそれに伴う外部環境の分析を進め、自社のマーケティング分析や事業展開に役立てていただければと思います。
武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師
経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/