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Case Study

マッシュホールディングスのブランド・ドメイン戦略を考察  ―CG制作会社が、なぜアパレル業界で成功を収めているのか【後編】

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PRTIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001150.000018505.html

 

前編では、急成長中のアパレルメーカーであるマッシュホールディングス(以下マッシュHD)の企業ドメインについて、検証しました。後編では、コーポレート・ブランド・ドメインにぶら下がる事業ドメインについて検証してみたいと思います。

 

事業ドメインについては、CTFフレームワークを用いて解説していきます。

CTFフレームワークは、ドメインの定義を下記の3つに分割し、その要素が重なるものについて、ドメインとして精査していくことが基本となります。

CTFフレームの3要素 



①顧客

②技術

③機能

 

ややわかりにくいので、これらを図に表してみます。

 

この図において、顧客・技術が重なるところ、技術・機能が重なるところ、機能・顧客が重なるところ、顧客・機能・技術が重なるところが、ドメインとして検討するところです。

では、3要素について更に深掘りして解説していきます。

 

①顧客
どのような顧客をターゲットにし、自社のサービス・商品の価値を提供するのかを想定します。更に、想定したターゲット顧客を分析し、どの顧客が自社に最適な顧客となるのかを検討していきます。

この際にターゲットとなる顧客を顧客層として各層ごとに仕分けしていくことが、一般的にはセグメンテーションと言われるものです。
通常、セグメンテーションで仕分けしていくには、ライフスタイルや趣味などの嗜好性によって異なるテイスト型分類と、地域・年齢・性別などの人口統計学によるデモグラフィック型分類の両方を掛け合わせて分析・確認していきます。

 

②技術
自社が提供するサービス・商品の価値が、自社のどのような独自性・技術で実現でき、なおかつ競合企業に対して差別化ができるのかを設定します。自社の独自資源について何かを特に検討していくことになります。

技術は比較的、競合他社よりも強みや差別化を強調しやすいところであり、サービス・商品の独自性をアピールできる重要ポイントとなります。

 

③機能
自社のサービス・商品が、ターゲット顧客に対して提供する価値とは何なのかを具体的に設定します。②の要素である「技術」が実際にサービス・商品としてターゲット顧客に提供できるようになって、初めて意味をなすものとなります。

機能は②の技術と合わせて、企業の決定的な競争優位要因となり得るところであり、自社のサービス・商品が社会的に存在する意味を証明するものであり、最も大事な要素と言えます。

 

事業ドメインの設定は、結局のところ①②③の要素を基に、

①どのような顧客に

②どのような技術で

③どのような価値を提供するか

を決定することです。

事業ドメインを決定することで、企業や事業の方向性が確定し、投資施策や戦略などが明らかになっていきます。結果として、自社の事業範囲が特定され、資源配分の無駄をなくすことができます。を決定することです。

 

そして、事業ドメインの設定の際には、下記の4要素も合わせて考えることが重要です。

 


 

2021.11月新規開講

 


 

では、これらを踏まえてマッシュHDについて、CTFフレームワークで図に表してみます。

 

マッシュHDで主要事業であるアパレルは、ターゲット顧客である若年層と、自社の保有技術であるデザイン力、そしてターゲット顧客の求めるシーン別の使い分けができる機能性を満たしています。
また、派生事業である化粧品については、アパレルと同様の主要ターゲット顧客へ、マッシュHDが持つデザイン性を重視したものを提供しています。

飲食については、ターゲット顧客との親和性が強く、お洒落なデザインスペースでの飲食体験を提供しています。

CG・不動産事業は、元来保有する建築デザイン技術と顧客の求める物件・デザインの機能性を活かした成果物を提供しています。以上のように考えてみると、現況のマッシュHDの事業ドメインは経営理念やビジョンに準じたものであり、企業ドメインにも相違していないものとなっています。

そのため、一見では相関性のないように見える多角化についても、ドメイン上で実は相関性があるということが理解できるかと思います。

また、事業ドメイン設定時の4要素を確認していくと、

A.競合他社と差別化が可能であり、自社の強みを最も活かせる場所で戦うこと
主要事業のアパレルにおいて若年層向けのブランドを細かくセグメンテーション化し、ブランド自体もリブランディングや販売方法を修正・変更することを繰り返しています。

B.適切な事業範囲を設定し、過度に広げすぎたり狭めすぎたりしないこと
主要事業で女性向けの商品構成が強い中において、男性向けの商材を増やしていくなど、一つの事業ドメイン内でも事業範囲を適切に広げていくよう、将来への種まきの手も打っています。

C.事業同士にシナジー性があること
元来強みを持つ若年層女性向けの新たな事業として化粧品のアイテムを増やすと同時に、男性向けのメイク商材も提案するなど、B要素も考慮した展開を模索しています。

D.現況だけでなく、将来性も考慮したものであること
主要事業の拡大だけに留まらず、ホールディングス化によって、不動産や飲食の分野においても、自社の強みを活かせるデザイン性を押し出したものを提供し始めています。

 

以上のように、マッシュHDは祖業であるCG制作会社から、アパレルメーカーに事業ドメインを拡大させ、更にホールディングス化によって、コーポレート・ブランド・ドメインの幅広い展開を模索している企業であることがわかりました。

 

不明確な多角化や事業ドメインの設定に失敗することで、事業の継続が危うくなる企業もありますが、マッシュHDの成功については、企業における「ドメイン」というものの存在が、如何に大きいものであるかが理解できる、モデルケースの一つであると言えます。

 

 

 

 

 

 


■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。

https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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