セミナー・実践会・相談会でブランド課題を解決する

Case Study

近畿大学の「おもろい」ブランディング戦略

投稿日:2018年2月23日 更新日:

近大生まれのマグロ解体ショー

少子化が進んだことで、旧態依然とした大学の世界でも、学生を引き付けるブランディングの意識が必要になっています。今回は、民間企業顔負けの奇抜なPR戦略で、志願者数日本一を勝ち取った近畿大学のブランディング戦略を取り上げます。

少子化の中で志願者数2倍を達成

18歳年齢人口が、1992年の205万人から2018年には118万人に減少し、大学進学率も頭打ちになる中、2018年を境に大学進学者が減少し、私立・国立を問わずつぶれる大学がでてくるのではないかといわれています。関係者の間ではこれを2018年問題と呼んでいます。

ところがその中でも、志願者数を10年間で2倍にし、4年連続志願者数日本一を達成した大学があります。東京の大学でもありません、「関関同立」(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)と呼ばれる関西私立トップ4でもありません。世間ではその下に序されている「産近甲龍」(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)のうちの一校、近畿大学です。

近畿大学が志願者数を伸ばした大きな理由は、その宣伝活動です。その特徴を3つ挙げたいと思います。

1. 民間企業とも変わらない宣伝活動

近大の中吊り風広告

大学は「宣伝」「広告」「営業」という言葉を使うのも憚られているアカデミックな世界です。「研究を金儲けと結びつけるのは学問への冒涜ではないか」「地道に研究成果を訴えていけば学生は来てくれる」という意見がまかり通っていたのが今までの大学でした。

しかし近畿大学は、一転、民間企業にも変わらないPR活動に取り組みます。広報部のスタッフとは別に学部や部署ごとに複数の広報担当者を決め、ボトムアップで情報収集、打ったプレスリリースは年間474本にも及びます。キュレーションサイトや、アメリカンドールを在学生に見立てたブログ、SNSなどを積極的に取り込みます。新聞広告や中吊り広告などでも奇抜なメッセージを発信しています。

2. 「近大マグロ」というコンテンツを「使い倒す」

近畿大学の広告

近畿大学の広報部長を務めた世耕石弘氏は著書『近大革命』で、「近畿大学を世間に強くアピールし、知名度を全国区に押し上げたのは、何といっても近大マグロです」と認めています。2002年に近大水産研究所が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功したことから、近大マグロは近畿大学の業績の代名詞のように思われています。

実は近大マグロは、世耕氏が2007年に近畿大学に転職した時に学内では「オワコン」(終わったコンテンツ)だといわれていました。もう記者会見も大々的に開いたのだから、十分ではないかと。

しかし世耕氏は、近大マグロは単なる近大の研究成果ではなく、「近大が掲げる実学教育をわかりやすく伝える最強のコンテンツ」と位置付けました。近大マグロには、研究者の涙ぐましい努力と、実学を実践したストーリーがあります。

その近大マグロをあらゆる広告で活用します。「固定概念を、ぶっ壊す。」という新聞広告では、火山口からマグロの頭がはみ出たビジュアルを展開しています。「マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?」「マグロだけじゃない。」とキャッチコピーで言わせておいて、ビジュアルはマグロを前面に出した新聞広告などもあります。オープンキャンパスではマグロの解体ショーを行い、近大マグロを使用したカップラーメンや、直営の養殖魚専門料理店を開くまでしています。

3. 大阪流の「おもろい」企画を連発

近畿大学のエコ出願

とにかく大阪流のユーモアにあふれたPR企画が目を引きます。
「産近甲龍」のくくりから脱却したいという思いから「早慶近」をぶちまけておいて、「言いだした自分でもアホくさくて、笑てまうわ」とつっこんでしまう新聞広告。阪神なんば線の開通に合わせて「近畿大学への近道です。」と掲げた車内広告。ネット出願の奨励に伴って「近大へは願書請求しないでください。」と呼びかけたポスター。青のりが歯についた外国人の美女をアップにして、「オレはいま、世界から試されている。」と書かれた国際学部の新聞広告。「近大発のパチもんでんねん。」というコピーとともに映し出されている養殖ナマズのビジュアルの新聞広告――などなどです。

ちなみに近畿大学は2016年、エンターテインメント業界大手の吉本興業と包括連携協定を結んでいます。

スクールアイデンティティという発想

近大のイメージ画像

近畿大学の宣伝活動の特徴を述べてきました。少子化の時代には、大学においても学生という「お客様」(世耕氏)を獲得するというマーケティングが必要です。

ここで「スクールアイデンティティ(SI)」という発想が必要になります。スクールアイデンティティとは「イメージアップを図るために、学校が打ち出す独自性」のことですが、つまりはコーポレートアイデンティティ(CI)の学校版だと思えば良いでしょう。企業が独自性を打ち出してイメージアップを図る必要があるように、近年の学校でも独自性をアピールする必要があるのです。

実学教育を是とした近畿大学は、その象徴である近大マグロを前面に出してSIを明確にしました。また宣伝活動を通じ、格式ばった大学とは一線を画し、革新的で奇抜なアイデアを奨励するベンチャー・スピリッツを実践しています。

アカデミックでしがらみの多い大学において、近畿大学はその殻を打ち破ることに成功しました。大変な苦労があったと思いますが、大学という旧態依然とした殻を破ったからこそ、他校から大きく抜け出すことができたのだと思います。

古いしがらみのある大学や、お寺においてさえ、マーケティングの発想が必要な時代です。業界の新旧を問わず、果敢にマーケティングに取り組む必要があります。

関連記事

ふるさと納税による地域ブランディング ーフレーム「ブランド・アイデンティティ・プリズム 」からの考察【後編】

前編では、ふるさと納税No.1となった都城市のブランディング戦略と、それを牽引する存在である霧島地域について分析してみました。 後編では、都城市でブランディング戦略の成功可能性が高い、高千穂地域のブラ …

緊急事態にこそブランド力を示すとき~アパホテル、シャープ、ルイ・ヴィトンに学ぶ~

新型コロナウイルスの感染拡大で休業を余儀なくされたり、売り上げが落ち込んだりして「マーケティングやブランディングどころではない」と考えている方も多いかもしれません。 しかし、「緊急事態にこそブランド力 …

夏は、カルピス。そのブランドの役割と変遷。 ロングセラー商品の機能進化

夏の定番商品といえば、カルピスだったという時代があります。おそらく、現在30代以降の年齢の方であれば、そのような時代を過ごした人も多いのではないでしょうか。 夏の暑い昼下がりに、原液を薄めたカルピスに …

【ブランディング事例】飽和状態の市場に新しい価値を生み出したブランディング術~味の素株式会社

うまみ調味料「味の素」で知られる味の素株式会社は、世界130カ国の国と地域で展開する大手食品メーカーです。商品ラインナップは調味料から加工食品、飲料まで幅広く展開しています。 この味の素がドレッシング …

ブランドリスク管理の重要性について  ーサントリー社に見る、ブランド毀損と影響と余波【前編】

酒類・飲料メーカーの大手企業であるサントリー社の新浪社長が、経済同友会で会議内に発言した内容が、社会で大きな反響を呼びました。   サントリー新浪社長「45歳定年制」発言で炎上…「ちょっとま …

サイト内検索