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ファンタジーから、生活へ。 新海誠監督作品と夏の憧憬

投稿日:2019年8月13日 更新日:

新海誠監督が2日、都内で行われた最新作『天気の子』の製作報告会見に出席し、本作について「東宝の夏映画として『王道の物語としてこんな風に終わると納得するよね』ということとは違うことをやっています」と語った。会見には声優を務めた醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、音楽を担当したRADWIMPSの野田洋次郎、桑原彰、武田祐介、川村元気プロデューサーも出席した。

本作は、『君の名は。』の新海監督が贈るエンターテインメント大作。天候の調和が狂っていく時代を舞台に、地方からの家出少年の帆高(醍醐)と、不思議な力を持つ少女・陽菜(森)が、運命に翻弄されながらも、自らの生き方を選択する物語が描かれる。

(中略)

さらに、新海監督は「観ていただいて損のないエンターテインメント大作になっています」と自信をのぞかせつつも「でも東宝の夏映画として『王道の物語としてこんな風に終わると納得するよね』ということとは違うことをやっています。『あなたはどう思うんですか?』と投げかけている映画です」と語っていた。

シネマトゥデイ 2019/7/2
磯部正和氏 署名記事
新海誠監督『天気の子』は王道の物語とは違う 観客に「投げかける映画」

個々人に夏の映画といえば何かを尋ねたら、思い浮かぶ作品がいくつかあると思われる。その中でも、スタジオジブリの作品を想起する人は、非常に多いだろう。スタジオジブリの描くファンタジー世界は、正に夢のような美しい世界観であり、夏の時間は、ジブリの夢の世界と共にあったという、綺麗な想い出をもつ人も沢山いるはずである。

ただ最近では、ジブリ作品の公開数が減り、夏の映画を代表するものが無くなってきていた。そんな中で、存在感を増してきたのが、「君の名は。」が大ヒットした、新海誠監督である。

新海誠監督は、ファンタジー世界を優美に描いたゲームの、「イース」シリーズで有名な日本ファルコムに入社し、パッケージデザインなどの仕事に携わった後に、退社してアニメーションの世界に入っている。アニメーションとしては、主に生活に密着した作品を手がけており、ファンタジー世界とは離れた世界観の作品が多い。作品の内容も、予定調和の勧善懲悪なものではなく、考えさせられたり、決して美しいばかりの作品ではないという傾向がある。ただ、その中でも風景や人間の細やかな心模様が可憐に描かれており、全般的に日常における美しさを大事にした作品になっている。

スタジオジブリという、ファンタジー世界の美的センスによる強力なブランド作品に対し、新海誠監督の日常生活の中にある美的世界感が、夏の映画としては、実に対照的なものとなっていることが印象的である。

SNSなどのコミュニティメディアが増殖した半面、個々人の価値観が多様化したことで、リアルな人間社会との関係性を築くことが難しい世の中である。

新海誠監督は、自身の作品のブランド価値についても、個々の鑑賞者の感覚に委ねているのかと思われる。自己アピールをせず、世界観や価値の押し付けではないブランドという点が、複雑な価値観をもつ現代社会において、相関性が高いのかもしれない。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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