セミナー・実践会・相談会でブランド課題を解決する

Case Study

“シン”・ブランド戦略 コロナ禍に見た飲食業界の起死回生 ~ ゼンショーグループ 店舗ブランド・コラボレーションによる新規顧客獲得作戦! ~

投稿日:2021年4月20日 更新日:

飲食関連企業は、どの企業も感染症問題の影響を受けて厳しい状況が続いています。2020年は、その影響が大きく、過去最大の落ち込みを記録しました。

2020年の「外食売上」、コロナ影響で過去最大のマイナス。居酒屋は前年比49%減
日本フードサービス協会が、2020年の外食産業市場動向を発表した。全体の売上高は前年比15.1%減で、1994年に調査を開始して以来、最大の下げ幅。新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きく、特にパブレストラン・居酒屋は深刻な打撃を受けた。全体の売上高は、政府から「緊急事態宣言」が発出された4月が前年同月比39.6%減と単月で最大の減少幅だった。

その後は徐々に回復傾向にあったが、8月をピークとした「第2波」、11月以降の「第3波」と、新型コロナウイルスの感染再拡大があったことなどから、年間で大幅に落ち込んだ。

業態別でみると、落ち込みが最も小幅だったのは「ファストフード」で3.7%減。テイクアウト・デリバリー需要に支えられ、「洋風」は前年を上回り6%増と好調だった。

一方で、店内飲食が中心の業態は軒並みダメージを受けており、「ファミリーレストラン」は22.4%減、「喫茶」は31.0%減、「ディナーレストラン」は35.7%減。なかでも落ち込みが顕著だったのは「パブレストラン/居酒屋」で、49.5%減と前年の約半分の売上高だった。客単価については、全体ではすべての期で前年を上回って推移したが、「パブレストラン/居酒屋」のみ、すべての期で前年を下回った。

こうした厳しい状況から、個人店だけでなく大手チェーンでも閉店が相次ぎ、店舗数は前年比7.3%減。特に第Ⅳ四半期(10〜12月)は12.2%減と大幅に減少した。

同協会によると、新型コロナウイルス感染拡大以降の外食需要は、感染を避ける消費行動やテレワークの増加など働き方の変化から、業態や店舗の条件も「繁華街立地」「店内飲食」「ディナー時間帯」「大人数利用」から、「郊外立地」「テイクアウト・デリバリー」「ランチタイム」「少人数利用」にシフトする傾向がみられるという。

コロナ禍の収束が長引く中、消費者の考え方やニーズは確実に変化した。店舗の立地は変えられないとしても、テイクアウトやデリバリーを始めたり、ランチメニューを充実させたりなど、いま消費者が求めているサービスを提供することが重要だといえるだろう。

(Foodist 2021年1月27日 配信記事)
https://www.inshokuten.com/foodist/article/6000/

このような感染症問題の波は大手飲食業態であるゼンショーももれなく影響を受けており、2021年3月期決算では前年を下回る業績を続けています。
2021年3月期第3四半期決算時点で、前年同期比較では、売上高448,340百万円 (△6.6%)、営業利益 4,746百万円( △74.5%) 経常利益4,666百万円( △74.1%)という厳しい状況。

そのような状況下でありながら、少しでも顧客との接点を多く確保する狙いとして、とても興味深いブランド・コラボレーション企画を知りました。

その内容は、ゼンショーグループにある飲食店をアニメブランドで横串を通して、新たな顧客獲得を狙ったブランドクロス戦略であり、新規顧客獲得以外にもグループ全体の一体感の醸成など、副次的にも一定の効果を生むことが期待できそうです。

ゼンショーもそうですが、最近は経営形態をホールディングス(持ち株会社)にする企業が多く、企業のM&Aや子会社の設立・統合が行われやすい環境 が整ってきています。特に小売業や飲食業などではマルチブランドによるチェーンストア展開が多く、事業撤退や新規事業の立ち上げに伴うブランドの改廃が積極的に行われる傾向があります。結果として、一つの企業体の中で強力なブランドを複数持っていることも当たり前の状況です。

そんなマルチブランドによる飲食業展開を行っているゼンショーが、グループ内にある店舗ブランドをコラボレーションさせ、“シン!?”規の顧客獲得作戦を発動させたようです。

ゼンショーHD/エヴァとコラボのキャンペーン「外食5チェーン共同作戦」
ゼンショーホールディングスは3月8日、アニメのエヴァンゲリオンの新作「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公開を記念して、同社の外食5チェーンでコラボキャンペーン「外食5チェーン共同作戦」を始める。「すき家」「なか卯」「はま寿司」「ココス」「ビッグボーイ(ヴィクトリアステーション)」で実施する。対象店舗は、全国で約3700店。

キャンペーンでは、エヴァンゲリオンに登場する5人のパイロットが、担当するチェーンをモチーフにしたオリジナルの描き下ろしデザインで登場。各店でオリジナルメニューを提供する。 (中略)

対象メニューを注文した人には、全36種のオリジナルクリアファイルから1枚をランダムでプレゼントする。クリアファイルは各チェーンでしか手に入らないデザインも用意した。
店舗では、作戦部長を務める葛城ミサト(声優の三石琴乃さんが声を担当)によるオリジナルの店内放送を実施。ビッグボーイとヴィクトリアステーションを除く店舗で行う。また、ラッピング店舗として、各チェーンの一部店舗をエヴァンゲリオンの世界観で特別装飾する。

さらに、「すき家」「なか卯」「はま寿司」では、キャンペーン期間中に、フェアトレードのアールグレイ紅茶を使った「紅茶のブラン・マンジェ」(240円)も販売する。機体カラーに合わせた、異なる味の別添えソースで楽しめる。
「すき家」はブルーベリー、「なか卯」はマンゴー、「はま寿司」ではストロベリーのソースを用意。内ぶたには、6種類のオリジナルデザインを施した。そのほか、ゼンショーネットストアで、コラボ限定の特製プレートやマグカップなどオリジナルグッズの販売も行う。

ゼンショーHDでは、キャンペーンを通じて、エヴァンゲリオンの世界観と、外食ならではのおいしさと楽しさを融合させた食体験を提供することで、日本を明るく元気に盛り上げたいとしている。
(流通ニュース 2021年3月4日 配信記事)
https://www.inshokuten.com/foodist/article/6000/

今回のグループにある店舗ブランド同士のコラボレーションという試みは、ゼンショーにとって何をもたらすことになるのか。
狙いは、グループ内の店舗ブランド・コラボレーションを行うことで、顧客の相互誘導が可能となり、グループによるシナジー展開が期待できる導線が出来上がるのではないかということかと思われます。

これは、いわゆるクロスマーケティング施策でもありますが、同じ企業体であっても、実際にそれを行うのは壁が高く、効果が期待しにくいところでもあります。その理由に、クロスマーケティングを行う際に、なんとなくのシナジー効果を期待しているだけで、どのようなターゲット顧客を狙うのかがきちんと定められていない場合が多いためです。また、クロスマーケティングを行った結果、双方の事業体にどのようなプラスの効果があるのかが理解されにくく、同じグループであっても、なかなか協力関係ができにくいという負の側面もあります。

そのため、クロスマーケティング施策を行う場合には、どのようなターゲット顧客を狙うのかあらかじめきちんと設定しておくことが肝要です。そして、施策を行うことでそれぞれの事業体に何がプラスになるのかを理解させ、納得させておくことがグループ内の協力関係を築きやすくなる前捌きとなるでしょう。

では、今回のゼンショーグループで行った店舗ブランド・コラボレーションによるクロスマーケティング施策はどのようなことが推測できるか、消費者の購買行動に沿って考え、どのようにして新規顧客を獲得していけるかブランド体験価値を時系軸、空間軸を意識しながら考察してみましょう。

 > 続きを読む 

関連記事

マクドナルドとモスバーガー

マクドナルドとモスバーガーの比較から見るブランドにおけるポジショニングとは?

モスバーガーHPより マクドナルドHPより   ポジショニングはフィリップ・コトラーが提唱したマーケティング手法であるSTPマーケティング(「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショ …

マッシュホールディングスのブランド・ドメイン戦略を考察  ―CG制作会社が、なぜアパレル業界で成功を収めているのか【前編】

PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001042.000018505.html 若年層に人気のブランドを複数展開し、絶大な支持を得ているマッシュ …

ダイソンの掃除機

ダイソンがエンジニアカンパニーなのにマーケティング巧者である理由とは!?

(出典:https://www.dyson.co.jp/dyson-vacuums/cylinders/dyson-ball-animal-fluffy.aspx) 1993年に設立以来、掃除機、扇風 …

瀕死のコロナ禍エンターテインメントビジネスの活路とは  ― ディズニーランドの生き残り戦略 【前編】

世界中に感染症問題が勃発してから、既に1年以上が経過しました。この間に社会様式が変貌し、経済的にも予想外の変貌を各社にもたらしています。 一部の国や地域ではワクチンの接種が開始されたものの、感染症問題 …

コロナ時代 ブランドの「選択と集中」で経営革新 <後編> ~資生堂 パーソナルケア事業ブランドを売却~

前編では、資生堂の日用品(パーソナルケアブランド)事業の売却は、「選択と集中」によるブランド戦略展開であるという結論付けを行いました。後編では、「選択と集中」というブランド戦略が正しいのかを検討してい …

サイト内検索