採用ブランディングについて その1
採用ブランディングとは?
「ブランド」は、企業が提案する価値と、消費者・顧客のコンタクト体験などが複合的に結びついて作られるもので、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会では、「ブランディング」を次のように定義しています。
“ブランディング”とは、ブランド・アイデンティティとブランド・イメージをイコールにするために【刺激】をコントロールしていく事である。
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会
採用ブランディングは、この“ブランディング”を採用に当てはめたものです。ブランド・アイデンティティ(企業が求職者に「こう思ってもらいたい」と考えていること)とブランド・イメージ(求職者が企業に対して抱くイメージ)をイコールにするために刺激をコントロールし、さらに求職者のコンタクト体験を複合的に結びつけて、求職者から「ここで働きたい!」という入社意欲を引き出す目的で行われる活動といえます。
採用ブランディングは、一定期間に大量の学生からの応募を受け付ける新卒採用だけでなく、中途採用においても重要になっています。人材不足が叫ばれる中、これまで新卒採用を中心としてきた企業にも、即戦力人材の中途採用の動きが拡がっています。その結果として企業間の採用競争は激化しており、従来通りの採用活動では優秀な人材の確保が難しくなっているのです。
これからは能動的に仕事を探している、いわゆる「転職顕在層」はもちろん、現在の仕事に満足しており、積極的には転職活動をしていない「潜在層」もターゲットとした採用活動が必要です。このため、消費者マーケティングの世界の知見やノウハウを採用活動に採り入れ、効果的に採用ブランドを改善しようという動きが活発になっているのです。
採用ブランディングによるメリット
採用ブランディングのメリットは以下が挙げられます。
(1)応募者の増加
(2)競合他社との差別化
(3)ミスマッチによる早期離職の解消
(4)広告費などの経費削減
就職活動を始め、自分の希望条件に当てはまる企業が複数あった場合、その優先順位をつけるうえで、企業イメージも重要なファクターとなるのではないでしょうか?
企業を調べる際、多くの求職者は基本的に一般消費者と同じような情報量しか収集できないため、
業種や製品・サービスの内容によっては一般に広く知られておらず応募がそもそも集まらない
という課題に直面している企業も少なくありません。
また、一方で、知名度があり企業イメージが良くても、採用活動が思うようにいかないケースもあります。確かに消費者に対する認知度の高い会社ほど、「あの製品を販売している会社か」と思い出してもらえるのは確かでしょう。またそうした消費者向けの強いブランドを複数持ち、「企業ブランド」が確立した企業が採用においても強いのは確かです。
しかし、その様に認知度の高い企業でも、どのような経営方針で、どのような人材を欲しがっているかを明確にイメージすることは難しいのではないでしょうか?これは消費者向けのブランドと、学生や転職者に対する「採用ブランド」が別物であることを示しています。仮に「消費者として自社のファンである人たち」と「企業側が考える採用ターゲット」が合致しなければ、認知度の高さがむしろ災いし、大量の応募者の中から本当に採用したい人材を選考するのに多大な工数やコストを必要とするというケースもありえます(食品メーカー、旅行代理店などに見られる傾向)。
また、テレビやネットでの情報が起因し、イメージと実際のギャップが起こり、その結果、応募者と採用ニーズとのミスマッチが発生し、内定辞退や離職につながるといったケースも実際にあります。
これらの問題を解消するために採用ブランディングを行えば、求職者は企業のことを、ある程度理解してくれた上で応募をしてくれるようになります。それにより採用ニーズに合った母集団形成ができ、ミスマッチの解消につながります。
さらに前述の通り、採用ブランディングとは「この企業で働きたい」というファンを増やすことです。このようなファンを入社させることで、定着率の向上にも貢献できます。また、求人倍率が年々上昇し続ける昨今、単純に既存の求人広告などで昨年同等の予算を投下しても満足のいく母集団形成ができない現状があります。そんな中で、しっかりとした採用ブランディングが行えれば、「あの企業の取り組みが話題となっているらしい。」「説明会、選考がおもしろかった!」などという口コミが広がり、自然に母集団が増えるようになります。つまり、広告にお金を掛けなくても人が集まる仕組みを作れることにもつながります。
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松下 弘司(まつした こうじ)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 認定トレーナー
オラクルクローラー代表
戦略コンサルティングファームでプロジェクト・リーダーとして幅広い分野のBPRプロジェクトを経験。その後、ブランドコンサルティング会社オラクルクローラーズを立ち上げ、現在は、企業家として新規事業開発をするほか、企業の経営顧問として経営戦略、ブランディングの支援を行う。
https://brand-manager.jp/