X

富士フイルム 本当にチェキが好きのカメラ市場戦略

シャッターを押すと、「ウィーン…」という音とともに10秒ほどで白いフィルムが出てくる。フィルムには撮影した画像がじわじわと浮かんでくる。富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」の使用光景だ。そのチェキの年間販売台数がついに1000万台の大台を超えた。2018年4月から2019年3月までの期間に1002万台を販売。

(中略)

カメラ市場は「想像以上のスピード」(業界関係者)で縮小しており、キヤノンやニコンなど大手カメラメーカーの業績は苦しい。キヤノンは2019年12月期の売上高予想を従来予想から500億円下方修正。ニコンの2019年3月期決算は、カメラの販売不振で映像事業は前期比18%の減収となった。

(中略)

富士フイルムは2018年5月からテイラー・スウィフトさんをプロモーションに起用している。高井氏は「彼女に新製品を渡したら、まったく説明していないのに一人で準備して楽しみ始めていて、本当に好きなのだと実感した」と振り返る。2018年度の当初の販売計画は900万台だったが、テイラー効果もあって1000万台超えにつながる3回目のブームが到来した。「本当にチェキが好きなテイラーを起用したことで、宣伝ではない自然なプロモーションになった」(高井氏)。

(後略)

東洋経済ONLINE 2019/5/12
「富士フイルム「チェキ」、年1000万台なぜ売れる」

カメラ市場の業績改善は難しく、背景にあるのはやはりスマートフォンだ。

スマホで手軽に写真を撮れるため、わざわざカメラという別の機械を持ち運ぶ必要性を多くの人は感じていない。メーカー各社は小型軽量化しやすいミラーレスカメラを相次ぎ投入。カメラメーカーならではの画質の良さなどを訴求しているが、市場縮小を食い止められていない。

逆風が吹く中、富士フイルムは、若年層を中心に絶大な影響力のある「テイラー・スウィフト」さんを起用した大型プロモーションをグローバル展開して、業績の改善を後押ししようとした。スマホで写真を撮って画像データをやりとりするだけの人たちにとって、シャッターを押して、フィルムが出てくるということが、テイラー・スウィフトさんのTVCMやWebでのプロモーションを通じて新しい「魅力」と感じられたのではないか。

チェキの売上が順調に伸びているのは、有名な芸能人を起用して消費者の購買を刺激する、インフルエンサーを起用したインターネットマーケティンを積極的、計画的に採用したのが要因だろう。企業の将来を左右するインフルエンサーをどう起用するか。テイラー・スウィフトさんの趣味志向をしっかりと把握した上でのプロモーションが、ターゲットのインサイトをつき心を掴み、大きな成功を収めたのであろう。

 

はやま 紺(はやま こん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 1級資格取得者 
紺デザイン ブランド・クリエイター
http://kon-design.com/

 

Categories: 話題の事例
sc: