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日本の老舗SNS企業による、次世代ビジネスモデル確立への苦闘

「『モンスターストライク』(モンスト)を再起させる」――ミクシィの木村弘毅社長は5月10日、決算説明会でそう話した。同社の2019年3月期(18年4月~19年3月)通期連結業績は、売上高が1440億円(前期比23.8%減)、営業利益が410億円(同43.3%減)、純利益が265億円(同36.5%減)と大幅な減収減益。20年3月期はモンストのゲームシステムを見直し、ユーザーの活性化を図る方針だが、業績予想は純利益が88.7%減の30億円と厳しい見通しだ。

19年3月期の減益要因は、スマートフォンゲーム「モンスト」を主力とし、売上高の大半を占めるエンターテインメント事業の不振だ。モンストの累計ユーザー数(全世界)が5000万人を突破し、MAU(月間アクティブユーザー数)は「依然として高い水準を維持している」というが、ARPU(ユーザー当たりの月間売上高)が伸びなかった。

木村社長は「ゲームシステムが複雑化したり、古くからプレイしているコアユーザーへの施策を厚めにしたため、新規ユーザーやライトユーザーの消費意欲が低迷した」と説明。今後は「仲間と共闘する」など誰もが楽しめるゲーム内容に立ち返り、ユーザー全体の活性化を図るという。

ITmedia news 2019/5/10
片渕陽平氏 署名記事
「モンスト」苦戦のミクシィ、20年度は純利益88%減の見通し
“ライトユーザー離れ”防げるか

日本のSNS黎明期に大ブームを巻き起こし、一世を風靡した企業の、mixi(ミクシィ)。今では祖業であるSNSのmixiよりも、「モンスターストライク」のスマートフォンゲームのほうが、知名度が高い企業である。

かつて、祖業のSNSが他のSNSの参入によりユーザー離れを起こし、経営が厳しい状況になったが、スマートフォンゲームを強化し、「モンスターストライク」の世界的ヒットにより、急激な業績回復を遂げた。

しかし現在は、スマートフォンゲームの参入企業も多くなり、祖業のSNSと同様の厳しい状況に至りつつある。それを補うべく、スポーツ事業などのM&Aを積極的に仕掛け、新領域の開拓を急いでいるものの、まだ収益源には育っていない状況だ。

近年では日本でもM&Aを行う企業は増加し、市場も急速に拡大している。

国内M&Aの市場規模と現状。2018年のM&Aは過去最多の3,850件!
https://fundbook.co.jp/ma-transition/
FUND BOOK ホームページ よくわかるM&A 2019/1/31

経営戦略の定石として、好調な事業がある間に新規事業を立ち上げて、M&Aを行うというのは理に適っている。しかし、当然ながら事業の育成には時間も費用もかかる。また、M&Aは時間を買うことにより、事業を短期間で軌道にのせる経営手法ではあるが、それでも企業文化の統合を超えてシナジーを生むのは、決してたやすいことではない。

幸いなことに、mixiの自己資本比率は2019年3月期決算時点で92%と高く、まだキャッシュは豊富に蓄えられている。そのため、即時に経営危機に陥るような状態ではなく、猶予期間は残されている。

今後のmixiが、黎明期のSNSを切り開いた時のように、新たなビジネスモデルを確立して再成長できるか、今後の行方を見守りたい。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント

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