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緊急事態にこそブランド力を示すとき~アパホテル、シャープ、ルイ・ヴィトンに学ぶ~

新型コロナウイルスの感染拡大で休業を余儀なくされたり、売り上げが落ち込んだりして「マーケティングやブランディングどころではない」と考えている方も多いかもしれません。
しかし、「緊急事態にこそブランド力を示すとき」だとわれわれは考えます。アパホテル、シャープ、ルイ・ヴィトンの事例から考えてみましょう。

感染者受け入れに国民から称賛されたアパホテル

医療崩壊が危惧され緊急事態宣言の発令もやむなしといった状況だった2020年4月3日、国内最大級のホテルチェーン・アパグループは、新型コロナウイルス無症状者及び軽症者の受け入れを表明しました。他のホテルが政府の受け入れ要請に対して「どこも手を挙げない」状況の中、アパホテルはいち早く支援の手を挙げたのです。

アパホテルは個性的な社長のキャラクター、政治色の濃い活動、シェア寡占化を目指す拡大路線などで、ラバー(ファン)も多いが、ヘイター(アンチ)も多いホテルでした。しかしこの決断をNHKが異例の企業名を挙げての報道を行うと、ネットでは称賛の声が溢れました。著名人も「(新型肺炎が)終息したら必ず泊まりに行きます」とツイート、アパホテルの名前もツイッターのトレンド入りを果たしました。

決断力とスピード感でブランド力アップ

実は競合の東横インも4月10日に受け入れを表明しており、多くのホテルも追従しています。しかしアパホテルだけがここまで称賛されたのは、なんといっても決断のスピードです。アパホテルは政府の受け入れ要請の前から、感染者受け入れの決断と準備をしていたのかもしれません。受け入れを表明した4月3日同日には医療関係従事者半額キャンペーンを打ち出し、4月20日には受け入れ実施と、実にスピード感のある決断とオペレーションを行っています。

しかし、新型コロナウイルス感染者が泊まったホテルは衛生上怖いという声も予想される中、なぜあえてアパホテルは感染者受け入れをいち早く決断したのでしょうか。「国難」(アパホテル)に立ち向かおうという気概もあるでしょう。しかし一番の目的はなんといってもブランド力の向上のためです。

2011年の東日本大震災の際にも、アパホテルは「全館開業し続ける」という決断をしています。そして食料品や毛布・ベッドなどをすべて避難者に提供したのです。

「一日たりとも休んではいけない。予約がない人も、ウチのホテルに避難する目的であれば受け入れなさい」と話しました。ホテル内にある毛布やベッド、それに食料品をすべて避難された方に提供したことで後々、大きな感謝をいただいた。ひいてはアパホテルのブランド力アップにつながりました。

マネーポスト2020年4月10日「アパホテル、コロナ不況でも攻めの姿勢「今は設備投資のチャンス」」

https://www.moneypost.jp/649834

このようなブランド力アップの経験があるからこそ、今回のスピード感のある決断に至ったと思われます。

異業種だからインパクトの強い支援策

2020年3月24日、国内でマスクが供給不足に陥っている中、家電メーカーのシャープが、政府の要請に応じてマスクの生産に踏み切ったことを発表、こちらもSNSで応援の声が数多く寄せられました。アイリスオーヤマも同じく政府の要請に応じてマスクを生産しているのに、なぜシャープが特に注目され、応援されたかというと、これまでもマスクを扱ってきたアイリスオーヤマと違い、家電メーカーのシャープがマスクを生産するという意外性からだと思われます。三重工場でのクリーンルームに空きがあったというのが主な理由ですが、技術対応力があり、国民が困っているときに立ち上がってくれる企業というブランド・イメージが付いたのではないでしょうか。

各ラグジュアリーブランドでも支援策が打ち出されました。ドルチェ&ガッバーナは免疫システム研究の支援、アルマーニグループは医療機関への寄付、グッチはクラウドファウンディングを行っています。

しかしとりわけインパクトが強いのは、LVMH(モエヘネシー・ルイ・ヴィトン)によるアルコール消毒液(ジェル)の生産でしょう。LVMHは「クリスチャン・ディオール」といったブランドの香水工場で消毒ジェルの生産をはじめ、フランス国内の病院に無償で提供したのです。

シャープのマスク生産、LVMHの消毒ジェルの生産、これらに共通するのは、異業種が支援物資を生産するという意外性です。意外な組み合わせだからこそ、一般消費者も興味を示し、また本業への関心も深まるでしょう。

そのほか、松屋フーズやノジマ、オンデーズなどが内定取消を受けた学生を対象とした採用選考を実施したり、ある飲食店が宅配を始めた中小飲食業者へのマニュアル無償配布を行ったりしています。

与える企業こそブランド・ロイヤルティという見返りを受けられる

アダム・グラントの『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』によると、他者志向の「与える人」こそ成功するという趣旨の主張がなされています。このような緊急事態にこそ「与える」ことが、結果的にブランドロイヤリティとして返ってくるのではないでしょうか。

 

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

Categories: Case Study
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