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広告にまつわるエトセトラ〜FIFAワールドカップ編〜

もうすぐFIFAワールドカップロシア大会が始まりますね。今回はワールドカップにまつわる広告のお話です。

ソニーCM「見せてくれ内田」の代償


2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会の日本代表。オシム監督の代役として急きょ岡田監督がチームを率いたことや、大会前の評価が散々だったことなど、今回の2018年ロシア大会と共通するところもありますが、2010年は見事ベスト16に進出し、国民みんなが「岡ちゃん、ゴメン」と手のひら返しをしたことも記憶に新しく、今回もぜひ好成績を挙げて、「西野監督、ゴメン」と喜んで謝りたいものです。

南アフリカ大会では本田圭佑選手をチームの中心に据えたことで好成績を挙げ、ネットでも「本田△」(本田さんカッケー)と絶賛されましたが、その裏で、それまでレギュラーだった中村俊輔選手、そして内田篤人選手がベンチを温めることになりました。

泣いていたのは本人だけでなく、日本のエレクトロニクス企業・ソニーもそうでした。ソニーは、長らくチームの顔の一人で、アイドル的な人気があった内田選手をCMに登用し、日本戦の中継の合間にも何度もCMを流しました。

CMのナレーターは何度も「見せてくれ内田!おまえが全力で相手の裏へ駆け上がる瞬間を!」と呼びかけるものの、実際のピッチには内田選手は1分たりとも登場せず、お茶の間には違和感と失笑しか残りませんでした。

ソニーは2007年から2014年までの8年間にわたってFIFAワールドカップのオフィシャルスポンサーを務めてきました。その額は約330億円。その他CMの製作費・放映料などの広告費は何十億にも上るでしょう。それだけの広告価値がソニーにあったのか…それはともかく、最適なタイミングで、最適なメッセージを送ることの難しさを教えてくれます。

女性の胸の谷間まで広告媒体

ワールドカップの試合になると、必ずといっていいほど、「こんな美女がいるの?」というくらいのルックスの女性が観客席で応援する姿が映し出されます。2014年ブラジル大会では、ベルギー人の17歳美女が試合中に映し出されて注目されたのをきっかけに、化粧品会社のロレアルとモデル契約を結ぶまでにいたりました。

その女性は自身のフェイスブックで「1年前は普通の女の子だったのに…!」と喜びのコメントをしていますが、ひょっとしたら当時から「1年後はモデルになってやる!」と思っていたかもしれません。なぜならワールドカップは、モデルやタレントの卵が集まる「品評会」といってもいいからです。おそらく彼女も、ファッション業界や芸能界の人の目に留まるべく、試合会場で美しい姿を披露したのでしょう。

その根拠ともいえるのは、2010年南アフリカ大会で一躍有名になった「美人過ぎるサポーター」ラリッサ・リケルメさん。上半身のほとんどをあらわにした彼女の胸の谷間にはnokiaの携帯電話が挟まれ、胸の露出部分には男性化粧品ブランドAxeのペイント文字が。実際にこれらのブランドと契約していたのかはわかりませんが、NokiaのPR効果は、ひょっとしたらソニーのCMを上回ったかもしれません。少なくともコストパフォーマンスは抜群です。

近年では看板はもちろん、ユニフォームの袖や時計表示の下までが広告スペースとなっていますが、観客席の一女性の胸の合間まで広告スペースとなるとは、現在の広告業界も進んでいますね。ちなみにラリッサさんは無事グラビアタレント、女優となり、サッカー選手と結婚しています。

直前になっても盛り上がらない理由

さて、本記事執筆時点で、日本ではFIFAワールドカップロシア大会の話題はほとんど盛り上がっていないといってもいいと思います。2010年の南アフリカ大会と共通点が多いと書きましたが、当時はバッシングが激しく、本大会直前に『「0勝3敗」ワールドカップ南アフリカ大会で岡田ジャパンが惨敗する理由』という書籍が出て話題になるほどで(結果は2勝1敗で決勝トーナメント進出)、負の意味で盛り上がっていたと思います。しかし今回はバッシングというよりは、アパシー(しらけ)が広がっているように思えます。

理由の一つは、日本サッカー協会のスポンサーにおもねった姿勢が挙げられると思います。ワールドカップのメンバー発表の場で、会長がまっさきに述べたのはスポンサーであるキリングループとアディダスジャパンへの謝意でした。監督解任を含むメンバー選考でスポンサーの意向が働いたと噂されても仕方ない姿勢で、ファンを無視した状況を作っていると思います。

「成長の物語」を伝えることで企業のブランドイメージも高まる

一番の理由は、過去の大会と比べて「成長の物語」がないことが挙げられると思います。プロリーグもなく、アジアでも弱小だった日本代表が、カズやラモスなどのスターによってサッカーブームを起こし、初出場の切符をあと少しのところで逃した1994年アメリカ大会、苦しみながらも初出場を遂げた1998年フランス大会、本拠地開催でベスト16の偉業を遂げた2002年日韓大会、中田英寿選手など最強ともいえるタレント軍団で世界を目指した2006年ドイツ大会。そして前評判を覆した2010年南アフリカ大会、世界一を目標に掲げながら夢と散った2014年ブラジル大会と、常に日本代表は「成長の物語」を見せてくれました。

しかし今大会の日本代表は、「成長の物語」を見せてくれそうな気配がしません。期待の若手を選ばず、4年前と同じ選手たちが主力を務める今大会の日本代表が、新しい物語を紡いでくれるのか。具体的にいえばニューヒーローやニューストーリーが生まれるのか、大いに疑問です。

逆に言うと、新しいヒーローが生まれたときに、ファンはワールドカップの魅力を改めて認識し、広告を打つ企業も恩恵に浴すと思います。
新しいヒーローは日本サッカー協会やスポンサーの忖度で生まれるのではありません。やはりファンの心の中から生まれると思います。ファンの目線に立ったヒーローにスポットを当てることで、日本の広告業界も潤うと思います。「成長の物語」を伝えることで企業のブランドイメージも向上するのではないでしょうか。

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