
承継から数年、後継者が必ず直面するのが人の問題です。
古参社員は先代の時代のやり方を変えたがらない。若手は入ってもすぐ辞める。自分の考えを分かってくれる人が、社内に一人もいない——この孤立感は、多くの後継者が経験します。
採用は、この状況を変える最も直接的な手段です。ただし順序と人選を間違えると、組織の分断をかえって深めます。
≪注意書き≫本記事は各ライターによる情報収集によって作成されているため、主観や意見、事実と異なる文言が含まれている可能性があることをご了承ください。
よくある失敗:「自分の味方」を採ってしまう
後継者が最初に採りたくなるのは、自分の考えを理解し、一緒に改革を進めてくれる人です。前職で実績があり、話が早く、新しいやり方を知っている人。
気持ちとしては自然ですが、これは危険です。外部から来た人が改革を主導すると、古参社員には「よそ者が引っ搔き回している」と映ります。
結果、社内が後継者+新しい人 vs 古参社員という構図になります。この分断が一度生まれると、その後の施策がすべて派閥争いに見えてしまう。正しい提案であっても「あちら側の意見」として処理されます。

最初に採るべきは「翻訳できる人」
承継期に本当に必要なのは、改革の推進者ではありません。両側の言葉が分かる人です。
古参社員がなぜその手順にこだわるのかを理解でき、同時に後継者の目指す方向も理解できる。どちらの言い分も否定せず、あいだをつなげる人。
こうした人材は派手ではなく、面接でも目立ちません。実績を聞いても「チームで」としか言わないので、評価もしにくい。しかしこの一人がいるかどうかで、組織が割れるか、まとまるかが変わります。
たとえば、どんな人か
イメージしにくい人物像なので、具体化してみます。
前職で、対立していた製造部門と営業部門のあいだに立った経験がある人。どちらが正しいかを裁定するのではなく、双方の事情を相手に説明して回ったタイプ。
面接で前職について聞くと、「営業は無茶な納期を持ってくるが、彼らも客先で頭を下げている」「製造は融通が利かないが、品質を落とせない理由がある」——両方の立場から語れる。
自分の手柄話が少なく、代わりに他人の事情に詳しい。採用の場では地味に見えますが、承継期の組織ではこの資質が最も効きます。
面接で見極める3つの問い

橋渡しの経験を聞く
役職や実績より、対立する人のあいだに立った経験を掘ります。そのとき何をしたか、どちらに立ったか。「どちらにも立たず、両方に説明した」と答える人が本命です。
「前の会社のやり方」への語り方を見る
前職を一方的に批判する人は、数年後に自社を同じように語ります。改善点を挙げつつ、良かった点も語れるかどうか。批判と敬意が同居できる人が、古参社員とも仕事ができます。
創業の歴史に関心を示すか
面接で会社の成り立ちを説明したとき、質問が出るかどうか。過去に興味のない人は、古参社員の言い分にも興味を持ちません。逆に「なぜその事業から始めたんですか」と聞いてくる人は、入社後も同じ姿勢で人の話を聞きます。
採用の前に、言葉を用意する
承継期の採用がうまくいかない最大の理由は、「この会社が何を目指しているか」を説明できないことです。
先代の言葉は古く、新しい言葉はまだない。この空白期間に採用すると、入った人は何に共感すればいいのか分かりません。結果、待遇と条件だけで選ばれ、より良い条件が出れば移っていきます。
だからこそ、理念の棚卸しと翻訳が先に来ます。語れる言葉を持ってから採用に出る。順序としてはこれが正解です。
いつ、何人採るか
最後に、規模の話をしておきます。
承継期にいきなり複数人を中途で採るのは避けたほうがよいと考えます。新しい人が同時に何人も入ると、既存の社員から見て「入れ替えが始まった」と映るためです。
まず一人。その一人が古参社員と信頼関係をつくり、社内の言葉を覚えてから、次を検討する。遅く見えますが、分断を起こしてやり直すより結局は早く進みます。
まとめ
承継期の採用で最初に採るべきは、改革の推進者ではなく翻訳できる人です。
そして採用の前に、自社を語る言葉を用意しておくこと。言葉がないまま人を増やすと、分断だけが増えます。急がば回れが、最も効く場面です。
事業承継とブランディングシリーズ - 第4弾 -
承継の前後で起こるブランドの問題と、その進め方を全4回で扱います。
真のブランディングは、正しいブランド理解から
“なんとなく”を、言語化する資料集。
ブランディングの基本と進め方を、実務で使える形にまとめました。
読むだけで、終わらせない。



