
9割軽減の先にある、ブランド価値を。
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「寄付をしたのに、ほとんど誰にも知られていない」——企業版ふるさと納税をめぐって、そんな声を聞くことが少なくありません。最大約9割の税負担が軽くなる制度でありながら、経理処理の一項目として静かに完結してしまう。けれども、この制度の本質は節税ではなく、企業と地域が「共に何かを成す」関係をつくれる点にあります。寄付を一度きりの支出で終わらせるのか、それとも社会的なブランド資産へと育てるのか。今回は、地方創生とコーポレートブランディングが交わる設計論を、最新の事例とともに読み解いていきます。
まず押さえる、制度の骨格
企業版ふるさと納税は、正式には「地方創生応援税制」と呼ばれます。国が認定した自治体の地方創生事業に企業が寄付を行うと、損金算入による約3割の軽減に、法人3税からの税額控除(最大6割)が上乗せされ、合わせて最大約9割の税が軽くなる仕組みです。1,000万円を寄付した場合、実質負担は約100万円まで圧縮される計算になります。寄付の下限は10万円と低く、中小企業でも取り組みやすい設計です。適用期限は令和9年度末まで延長されており、当面は安定した制度として活用できます。注意すべきは、本社が立地する自治体への寄付は対象外という点。あくまで「縁のある他地域を応援する」制度だと理解しておくとよいでしょう。
内閣府が2025年9月に公表した実績によれば、令和6年度(2024年度)の企業版ふるさと納税の寄付総額は約631.4億円に達し、前年度比で約1.3倍となりました。寄付件数は18,457件、寄付を行った企業は8,464社、受け入れた自治体は1,590団体にのぼります。令和2年度(2020年度)の寄付額が約110億円だったことを踏まえると、わずか4年で約6倍に拡大した計算です。制度開始以降では累計1,631もの地方公共団体が活用しており、制度は着実に定着しつつあります。人材派遣型についても、内閣府公表で2024年4月時点までに157名の派遣実績が報告されており、資金と人材の両面から地域を支える動きが広がっています(内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制の令和6年度寄附実績」2025年9月)。

なぜ「税制の話」で終わらせてはいけないのか

税の軽減額だけを見れば、この制度は単なるコスト最適化の道具に映ります。しかし視点を変えると、企業が自らの意志で「どの地域の、どんな未来に投資するか」を選び、社外へ表明できる数少ない機会でもあります。寄付先の選定は、そのまま企業の価値観の表明になる。だからこそ、選定理由に自社のビジョンやミッションとの深い共鳴を挙げる企業が増えています。化粧品会社が世界自然遺産・白神山地の保全に参画し、その姿勢が「自然と共にある企業」というイメージを内外に浸透させた例は象徴的です。制度を税務の枠に閉じ込めるか、ブランドの物語に接続するか。ここで企業ごとの差がはっきりと分かれます。
寄付を「社会的ブランド資産」に変える3つの視点

では、単なる支出を資産へと転換するには、何を設計すればよいのでしょうか。鍵は次の3点にあります。
■パーパスとの整合
寄付先を「話題性」ではなく「自社の存在意義と地続きか」で選ぶ。整合が取れているほど、その取り組みは説明不要の説得力を帯び、後から語るストーリーも一貫します。■従業員の巻き込み
寄付先の選定や現地訪問に社員が関わると、地方創生が「経営の決定事項」から「自分ごと」へ変わります。誇りとエンゲージメントは、社内に向いたインナーブランディングそのものです。■関係人口の創出
一度の寄付で終えず、視察・協業・情報発信を通じて地域と継続的に関わる。企業が「その地域のファン」になることで、税額控除では測れない無形の資産が積み上がっていきます。
実務は「協働設計」と「発信」で決まる
制度を資産化できるかどうかは、実務の巧拙にかかっています。第一に、自治体との協働設計です。寄付を募集する事業の中から選ぶだけでなく、自社の強みを活かせる事業を自治体と一緒に描けると、寄付は「協賛」から「共創」へと質を変えます。第二に、ストーリーの発信。何のために、どの地域の、どんな課題に取り組んだのかを、統合報告書やオウンドメディア、採用サイトで語ることで、初めて寄付は社外に届く資産になります。逆に言えば、発信を設計しなければ、9割軽減という数字だけが残り、ブランド価値には一切結びつきません。そして第三に、単発で終わらせない継続関係の設計です。複数年の継続寄付や、翌年の成果報告を前提にした関わり方を組み込むことで、地域からの信頼と物語の厚みが着実に育っていきます。
「人材派遣型」という一歩踏み込んだ選択肢
より深い関係を求める企業には、人材派遣型という選択肢があります。寄付とあわせて自社の社員を自治体へ派遣し、専門知識やノウハウで事業を支える仕組みです。寄付を原資とした事業費から人件費がまかなわれるため、企業の実質負担を抑えながら人材を送り出せます。岡山県真庭市は全国で初めてこの仕組みを受け入れ、観光文化発信拠点の運営に企業人材を活かしました。ある生命保険会社は愛知県や長野県へ社員を派遣し、移住・定住や関係人口づくりの現場を担っています。派遣された社員にとっては、地域課題と向き合う経験そのものが得がたい成長機会になる。企業・自治体・社員の三方にとって、これほど「関係人口」を体現する形はないでしょう。
まとめ:寄付を「点」から「関係」へ
企業版ふるさと納税の真価は、税額の圧縮ではなく、企業と地域が結ぶ関係の設計にあります。パーパスに沿って寄付先を選び、社員を巻き込み、物語を発信し、翌年へと関係をつないでいく。この一連の設計ができたとき、寄付は「点」の支出から「線」の関係、やがて「面」のブランド資産へと育ちます。地方創生とコーポレートブランディングは、もはや別々のテーマではありません。どの地域の、どんな未来に投資するか——その選択と発信の積み重ねこそが、これからの企業のブランドを静かに、しかし確かに形づくっていくのです。
真のブランディングは、正しいブランド理解から
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